私立秀麗華美学園
茶色いつるの巻き付いた藤棚に座り、槙野さんの話を聞く。
不安げながらも彼女は事の詳細を語った。

零さんが挟む質問のおかげもあっていくつか加えられた情報を整理すると、槙野さんの父親は淳三郎氏に似たタイプのようだ。
その上かなり勝手で、今までも槙野さんは言われるがままということがほとんどだったらしい。

作業着に軍手姿の零さんは、いつにも増して真剣に耳を傾けているようだった。


「……突然言われて、どうしたらいいか、わからなくて」


鼻声で締めくくる槙野さん。進もいらんことを言わずに黙って聞いていた。

話が終わったことを確認して零さんは腕を組みベンチの背にもたれた。
いつもなら即座に喋り出しそうなものなのに、「ふーん……」と呟いたきりになる。

少しの間沈黙が続き、進が取りなすように口を開いた。


「で、あの、言っていた通り、何か助言を頂けたらと思いまして」

「助言、なあ」


口を開くのを渋るような零さんの態度に、槙野さんも困惑しているようだった。

3人の視線を受け止めて、ううむと唸る。


「そりゃ、力になりたいのは山々だけどな。映子ちゃん。混乱してるとは言うが、要は結婚相手を押し付けられることが気に食わないんだよな?」

「気に食わないというか……私はただ、驚いてしまって……」

「驚いて、で、納得できないから悩んでるって形を取ってるわけだろ?」


いつもの零さんらしからぬ少し嫌味っぽい言い方に、進は俺と同じく内心動揺しているようだった。

当の槙野さんの方は声を少し荒らげる。


「確かにそうかもしれないです。悩んでる形を取ってるって言い方はどうかと思いますけど。
だって、納得なんてできないわ。今の時代に人権を無視するみたいなこんな制度、絶対おかしいと思います!」

「んなもん今更だろ? 他人事に思ってたわけじゃあるまいし」


あまりにも突き放した言い方に、つい非難を込めた視線を送る。同時に、槙野さんは唇を引き結んで立ち上がり、走り去ってしまった。

追いかけようと腰を上げると、進に止められた。


「俺が行くから。お前は師匠に話聞いとけ」


俺が行ったところで適当なフォローができないことは目に見えていたので、黙って身を引いた。
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