私立秀麗華美学園
進の背中を見送ってから零さんを見ると……うなだれていた。
頭を抱えて机に伏している。


「……何してんすか」

「……悪い。反省してる」

「わかりやすいうなだれ方ですね」

「あー。何やってんだ。感情むき出しじゃねえかよ俺。指名率ナンバーワン失格だろ……」


おい師匠。


「そこは失格でいいですけど」

「泣いてたか? 映子ちゃん」

「進になぐさめられてるだろうから、今頃はたぶん」

「あーーーーー」


両手で金髪をぐしゃぐしゃかき回す零さん。その様子を見ていて、思い出したことがあった。


「すいません、ちょっと関係ない話いいですか」

「いいわけねえだろ空気読めよ」

「零さん週末出かけてました?」


兄ちゃんの披露宴帰りの列車で見かけた、黄色い頭。
座っていた席の横の通路を通って行ったはずなので、あれだけ喋っていたら俺たちに気づかないわけないと思うのだが。
そして、普段の零さんなら珍しい場所で会った俺たちに声をかけないはずがないのだ。


「見た、のか」

「列車で。……やっぱ隠れてました?」

「別にそういうわけじゃねえけどさ……」


そして沈黙。
とりあえず顔を伏せたままの零さんの正面に座り、小鳥の鳴き声を聞きながら待つ。寒い。
 
ブレザーの袖を引っ張って手に息を吹きかけていると、零さんがガバッと顔を上げた。びっくりした小鳥が飛び上って逃げて行く。


「悪かった」

「それはもう聞きました。……俺は、零さんが全面的に悪いと思ってるわけではないですけど」

「例え俺の言ったことが正しかったとしてもな、女の子泣かしたら極悪人って決まってんだよ」


そうですか、と俺は呟く。確かにこの人はお前の師匠だ、進。


「というわけで、また来週、同じ時間にあの2人連れて、ここに来てくれねえか」

「何がというわけなのかわかりませんけど、了解しました。あと俺の質問は無視ですか」

「それも今度説明するって。あと、そうだな、スペシャルゲストも用意するからさ。せっかく来てくれたのに悪かったな」


なぜここでスペシャルゲストなのかとかはわからなかったが、何か考えがあるらしかったので、了承の意だけを繰り返し、俺は植物園をあとにした。


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