私立秀麗華美学園
翌日登校すると、槙野さんと進は既に席に座っていた。進のなぐさめは功を奏したらしく「昨日はごめんなさい」と槙野さんは殊勝そうに言っていた。
それでもやっぱり納得できないことに変わりはないようで、零さんに関しては多くを言わない。

どうだろうなあと思いながらも言われたことを2人に告げると、槙野さんはきょとんとしていた。スペシャルゲストのくだりのあたり、進も眉間にしわを寄せていたが、それでも零さんの美徳を説いていたので、槙野さんもなんとか来てはくれるだろう。


そのまた次の日の土曜日。午前授業だったので、昼飯を食べてから、ゆうかが図書館で勉強するというのでつきあった。

120度ぐらいのVの字型のテーブルに、角を挟むように座る。とりあえず教科書を開くだけ開いて、身体の向きはゆうかの方。


「それで、昨夜には手紙が届いてたんだって。零さんから」


今朝槙野さんから聞いた話をそのまま告げる。ゆうかはちらっと視線をくれてから、物理の問題集を開く。


「すっげー熱心な謝罪文と、なんか、こんぐらいの大きな赤い花も一緒についてたとかって」

「ふうん。サザンカあたりかしら」

「そんだけするぐらいなら最初から……って思うけど、やたらと感情的だったんだよなあ零さん。自分でも言ってたし。なんっか気になるんだよなあ」


列車でのこともあるから余計にだ。結局答えてはくれなかったが、反応から見て何か関係があることは間違いなさそうだし。


「でも進がいて正直助かった。槙野さん、ぜったいあのあと泣いてたんだろうなー」

「すっかり仲良しね」

「うーん……うん……ゆうかのことも普通に話すしなぁ……あとなんだかんだでたまに勉強教わってるな……」


三大瀑布。即座に頭に浮かぶ。五大湖も覚えた。あー、なんかやっぱりちょっと悔しい。


「あんなに敵対視してたのが嘘みたいね」

「実益伴ってたらさー……泣いてる女の子の相手なんて、できないし」

「わたしが泣かないからって言いたいのかしら」

「……泣かないじゃん」

「槙野さんの直面してる事態なんかとは、縁がなかったものだから」


……嫌味なのかどうか断定しかねていると、「冗談よ」と横顔が笑う。
好きな人がいる。本意ではない婚約。順番が違うだけではある、なあ。


「冗談だって」

「ほんとかなあ」

「ほんとよ。……冗談なのが、ほんとよ」


問題集に目を落としていたゆうかが、わざわざこっちを向いて、丁寧な説明を加えた。

それはよく考えてみればとても嬉しかったけれど、やっぱり俺の立場はどちらかというと、泣かせかねない側なんだよなあと、思ったのだった。
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