私立秀麗華美学園
もやっとしたまま放課後。荷物は教室に置いていくことにして、おずおずと俺たちの席のあたりに近寄ってきたゆうかと共に、植物園へ向かう。


「なんだか突然、ごめんね、槙野さん」

「いいのいいの。謝らなければならないのはこちらかもしれないし。だけど、その代わり、ゆうかさんには相談を聞いていただくことになるかもしれないわ」


今は優しく微笑んでいる槙野さんだが、昨日のお父さんとの電話ではどんな話をしたんだろうと気にかかる。聞いて良いものかどうか、どうやって聞くべきなのか逡巡しているうちに、気づけば進が話題に出していた。


「このへっぽこが花嶺さんに適切な説明をできているかどうかは極めて疑わしいから、槙野さんから少し話してもらった方がいいかもしれないね。お父上のご意向は、相変わらずなのかな?」


……話を切り出すため俺をだしに使っているところには、目をつぶることにする。


「ええ、変わらず……昨日は、そろそろ顔合わせの段取りを始めるということを言われたわ」

「始める、って、随分独断的な言い方ね」

「お父様はそういう方だから……」

「そう。うちもそんな感じよ。そもそもわたしたちは小学2年生の頃だったから、自我も何もって感じではあったけれど」

「初めて会った時のゆうか、すんげえ嫌そうな顔してたけど」

「へえ。覚えてなーい」

「そんなに小さい時から……その頃って、PAK制度もまだ無かった頃よね?」

「そうね。そのよくわっかんない制度に乗っかり出したのが、丁度中等部に上がる時だったかしら」


気楽に会話できているらしいあたり、やっぱりゆうかも連れてきていてよかったんじゃないかと思う。槙野さんとゆうかを中心に会話をしながら、植物園の奥地に着いた。


「あ、いるいる。ベンチのところ」

「もう一人座ってるな。師匠の言う、スペシャルゲスト、か……」


零さんはその相手と談笑しているらしく俺たちが来たことにはまだ気づかない。
俺たちの方に背を向けて座っているスペシャルゲストなる人物は、小柄だがとても姿勢良く座っていて、その背筋の伸ばし方には、どう考えても見覚えがあって……


「お年を召してらっしゃるわね」

「だけどあの、しゃんとした座り方」

「零さんとは対照的な白髪」


立ち尽くしている俺たちにやっと零さんが気づいて、立ち上がり大手を振ってきた。


「ようお前ら! よく来たな!」


零さんんの声に促されるようにこちらを向いて、穏やかな微笑みを俺たちに送ってきた本日のスペシャルゲストは、学園長、白上椿先生だった。
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