私立秀麗華美学園
「とのことですので、お話を始めたいと思います。
私はあなた方について、それほど詳しいことは伺っておりません。
ただ零から、あの、PAK制度のことについて、話を聞かせて差し上げたい生徒さんがいるということでこちらへ参りました」


制度、と聞いて槙野さんの肩が揺れる。

零さんはベンチに座った俺たちからは離れたところで、花壇にもたれて腕を組んでいた。


「……私が言ったからだと思います。先週、こちらで話をした際に。あんな制度は間違ってるって」

「ではあなたが、今後制度を適用されようとしているお嬢さんね?」

「はい、父が、そのようにと」

「わかりました。ではこの学園が、つまりは私が、あの制度を創ることになった経緯をお話ししたいと思います。
そのためには少し、時間を頂かなければなりません。なにしろ、私の学生時代に端を発するものですから」


学園長、椿先生は改めて居ずまいを正した。もふもふした襟巻きの具合を整え、口元がはっきり見えるようにする。


「50年以上も昔のお話になりますねえ。
貧しい時代でしたが生家は戦前からの名望家だったために私は、何不自由なく育ちました。私はここのように似た家柄を持つ子ばかりの通う学校に、幼稚舎から通っていました。女性ばかりの学校です。

大きな病気もせず、困った目にも合わず、箱入り娘として育てられて十数年が経って。
今のあなた方より、ひとつかふたつ下の年であったと思います。ある日突然お父様に呼ばれたと思ったら、何の前置きもなく、一枚の写真を見せられました。

お察しの通り、写っていたのは同年代の凛々しい顔をした男の子です。お父様は、私を彼のところへ嫁に出すつもりだとおっしゃいました。

しかしその時私には、恋人がいたのです。喫茶店で出会ってから交際を始めてまもない、淡い仲でしたが」


白い息をふっと吐いて、椿先生はにこりと槙野さんと視線を合わせた。
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