私立秀麗華美学園
最初に口を開いたのは槙野さんだった。
そしてそれと同時に、彼女は立ち上がって身を折っていた。
「ごめんなさい」
顔を上げた槙野さんの目に、涙は浮かんでいなかった。強い視線は微笑む椿先生をまっすぐ見つめていた。
冷たい風が俺たちの集う藤棚の間をふわりと通り過ぎて、場の空気をすっかり入れ替えた。
「わたしの考えが浅はかでした。椿先生の仰る通りです。
こんな環境に生まれたからどうしようもない。お父様に何を言っても変わらない。行動を起こす勇気もないくせに与えられた事態を深く考えもせず文句だけつける。
今、自分がどうしようもなく恥ずかしいです」
槙野さんは身体の向きをかえ、今度は離れたところに立つ零さんを見据えた。
「そして零さんにも。あなたの言うことは正しかったです。納得できないのではなくて気に喰わない。わたしは自分で行動することを避けて、問題をすり替えていました。ごめんなさい。
そしてありがとうございます。一介の生徒に過ぎないわたしに、わざわざこんな機会を与えてくださって」
「それに関しては私にも反省の余地があるようです。あえて仔細を生徒には伝えておりませんでしたが、導きが必要な場合も多くあるのでしょう。
全てを自身で考えなさいというのは酷だったかもしれません」
全身を決意に固めたような槙野さんを見て、椿先生は同意を求めるように目を細める。その小さな仕草ひとつに槙野さんは身体の力を抜き、しかし固めた決意の向ける先に自信を持ったようだった。
「父に、連絡を取ろうと思います。例の話を白紙に戻して欲しいなどとは言いません。とりあえず現状を話します。言いなりになりたくない理由があること、自分の意見を伝える意志があることを、わかってもらいたいです」
「私からお伝えするのはあとひとつだけ。
善は急げということわざ、私はとても好きですよ」
ウインクをして見せる椿先生に勢いよく頭を下げ、俺たちや零さんに向かっても同じことをしたあと、槙野さんは校舎の方へ走って行った。
そしてそれと同時に、彼女は立ち上がって身を折っていた。
「ごめんなさい」
顔を上げた槙野さんの目に、涙は浮かんでいなかった。強い視線は微笑む椿先生をまっすぐ見つめていた。
冷たい風が俺たちの集う藤棚の間をふわりと通り過ぎて、場の空気をすっかり入れ替えた。
「わたしの考えが浅はかでした。椿先生の仰る通りです。
こんな環境に生まれたからどうしようもない。お父様に何を言っても変わらない。行動を起こす勇気もないくせに与えられた事態を深く考えもせず文句だけつける。
今、自分がどうしようもなく恥ずかしいです」
槙野さんは身体の向きをかえ、今度は離れたところに立つ零さんを見据えた。
「そして零さんにも。あなたの言うことは正しかったです。納得できないのではなくて気に喰わない。わたしは自分で行動することを避けて、問題をすり替えていました。ごめんなさい。
そしてありがとうございます。一介の生徒に過ぎないわたしに、わざわざこんな機会を与えてくださって」
「それに関しては私にも反省の余地があるようです。あえて仔細を生徒には伝えておりませんでしたが、導きが必要な場合も多くあるのでしょう。
全てを自身で考えなさいというのは酷だったかもしれません」
全身を決意に固めたような槙野さんを見て、椿先生は同意を求めるように目を細める。その小さな仕草ひとつに槙野さんは身体の力を抜き、しかし固めた決意の向ける先に自信を持ったようだった。
「父に、連絡を取ろうと思います。例の話を白紙に戻して欲しいなどとは言いません。とりあえず現状を話します。言いなりになりたくない理由があること、自分の意見を伝える意志があることを、わかってもらいたいです」
「私からお伝えするのはあとひとつだけ。
善は急げということわざ、私はとても好きですよ」
ウインクをして見せる椿先生に勢いよく頭を下げ、俺たちや零さんに向かっても同じことをしたあと、槙野さんは校舎の方へ走って行った。