私立秀麗華美学園
槙野さんが立ち去ってすぐ、椿先生も腰を上げた。零さんが藤棚の方へ近づいてくる。


「さて、残念ですけれど私ももう行かなければ。これでもそれなりに多忙の身ですのでね」

「ありがとなばあちゃん。あとあんま無理すんなよ」


はいはい、と嬉しそうにして孫の首元に手を伸ばし上着の襟を正す。俺たちも恐縮して立ち上がった。


「めったとない機会ですから、生徒の方々と直接お話しができてよかったです。学生生活に励んでくださいね。では、また」


学業に、とは限定しないところが椿先生らしいなと思った。先生に手を差し出され、俺たちは慌てて握手に応じる。「そこまで送ってくから」と言った零さんと共に先生が離れていって、俺たち3人は力が抜けたようにすとんと腰を下ろした。


「ほんとに、スペシャルゲスト、だったな」

「ああ、驚いた……ゆうかの言っていたようなこと、俺は全然知らなかったよ。制度を利用したことは一度もないから」

「わたしも話を聞いていて気づいたようなものよ」


隣に座るゆうかは視線を落としている。制度のことをゆうかと並んで聞くことになるとは思っていなくて、そこはやっぱりお互い緊張していたのだと思う。関係性を改めて確かめさせられたようなものだったから。

特別な関係性を、ゆうかと結べていて嬉しい。当たり前だ。なのにこういう時素直に嬉しいとだけ思えないのは、そう思ってるのが俺だけだったらやだなあってのがあるからだ。

今、何、考えてる?

聞いてしまえる自信はまだ、ない。
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