私立秀麗華美学園
「傍観者、って仰ってましたけど」

「俺か? 那美と付き合ってたわけじゃねえよ。俺は好きだったし、向こうも気づいてたと思うけど。那美はどっちかってと月城に気に入られようと頑張ってたしさ」


那美さんの本当の気持ちは知る由もないが、そんな構図では当人以上に周囲の人間に憎まれるのも無理はない。


「那美より俺がグレてさ、中退までしたもんな」

「椿先生、よくお許しになりましたね」

「まー、ホストも立派な職業だって。でも戻ってきてよかったよ。あのまんまじゃ那美に呼んでもらえなかったかもしれねえしな、披露宴。
幸せそうな那美が見られてよかった」


目を細めて笑う。仕草が、椿先生に似ているなと思った。


「でも、別に俺たちから隠れなくても」

「好きだった女の披露宴で知り合いに会いたい男がどこにいるんだよ」


「だった」という表現にどこかほっとしてしまう自分がいた。どうしても兄ちゃんの気持ちになって考えてしまう。


「帰りの列車も2本ずらしたはずだったんだけどなー。俺のが一本遅れてお前らが乗り換えうまくいったんだろうな。あんときゃ焦った。無視したみたいになって悪かったよ。
ついでに言っとくけどな、お前らと初めて会った時あったろ、あれ偶然じゃねえから。月城和哉と喋ってるの見てから、気になって尾けてた」

「尾けて……!? えっ、じゃあ覗き見してたとかいうあれは……」

「尾けてたら見入っちまって、月城のやつっぽいこと忘れてたから、別に演技してたとかそういうわけじゃねえよ。名前聞いたのも随分話しこんでからだったしなー」


出会った時から結構衝撃的存在だったが、それ以前から関わりがあったとは。しかも、あまり良い関わりとは言えない。

初めっから気さくで聞き上手だった零さん。そんな思いを抱えていたとはつゆ知らず接していたが、心の広さに恐れ入る。
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