私立秀麗華美学園
放課後。今日もゆうかは仕事で一緒に帰れないということだった。
普段ならわりと一人で帰っていたが、今日はなんとなく、待とうかなと思った。

不安でモヤモヤしてたことがいちばんの理由だ。今までだったらこういう時はたぶん、なおのこと顔を合わせずにいようとしていた。余計機嫌悪くなるんじゃないかって、逃げてたはずだ。

だけど今はそれが良いやり方には思えなかった。真意を問い質したりするつもりはない。そこまでの勇気は正直ない。

だけど俺がゆうかと一緒に帰りたくて待っている時間を、ゆうかが好意的に汲んでくれるだろうことぐらいは、わかるようになったのだ。雨の中を走ったあの日。浴衣を着ていたあの日。腕をつかまれて教室を走り出たあの日。
いろんなことがあったから。

今となっちゃダメで元々、みたいな、投げやりな考えも捨てきれずにはいたけど。


ゆうかが教室にかばんを置いて行ったままだったので、教室で待つことにした。
自慢じゃないがやらねばならない課題には事欠かないので、平均点取れなかった数学の小テストのとき直しをする。ほんとに自慢じゃない。

ベクトルどころか指示された立体を図におこすのに苦労していると、突然教室の戸の開く音がした。


「…………よぅ」


部活のユニフォームを着た、進だった。向こうも思いも寄らずといった様子で目を見開いている。


「……また、課題プリントか?」

「……前もあったな、この状況」


いつの頃だったか。今年度の最初のテストよりも前だ。
俺がゆうかのプリントを写していて、あの時もこいつは部活の格好をして突然やってきた。そして失礼極まりなくゆうかに好きな人がいるのかどうかという質問を投げてきたのだ。ゆうかにとっての"救世主"たるこいつの思いを知った俺は失望のどん底に突き落とされたんだった。

あんな時のことですら、懐かしみをもって思い出してしまった。あまりにも酷似した状況に、進も少しだけ笑っている。
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