私立秀麗華美学園
「あの時は知ってて来たんだったけどな」


そう言って進は自分の机の横にかけていたシューズ入れを取った。
今日は偶然、ということらしい。


「ゆうか待ちか」

「あー、まあ。うん」


あの時よりも濃い夕日が窓を染め抜いている。用事を済ませたはずの進が、オレンジ色の影の中から動こうとしない。


「……はよ行けよ」

「たまにはさぼらせろよ」


キャプテン様が堂々と何言ってんだよ、とかなんとか、つっこもうとしたけど、やめといた。気になるならなるって言えっつーんだよ。言わなくても、わかるけど。


「ゆうかがさ、突然、話、あるみたいなんだ」


机にもたれかかったまま、やつは何も言わない。


「ふられんのかなーと、思ってさ」

「ふられるも何もお前ら別につきあってるわけじゃねえだろ」

「……間髪入れずにお前は……捨てられるって言えば満足かよ」


今のが敵意じゃないことはもういい加減わかっていた。あげあし取れるとこ取っとかないと気が済まないのだ、俺相手には。

雄吾のように心配するなと言うわけでもなく。進はしばらくそこにただ立っていた。


「諦めてやるよっつっただろ」


そして、いつも通りに視線を合わせないままで口を開く。


「ゆうかにお前は不釣り合いだと思ってたし、ゆうか自身が望んでねえことだと思ってた。
だからあの時宣戦布告して、先のことなんか考えず、奪ってやろうと思ったんだ。
それを諦めるっつったのは、なんでだと思う」

「……先、っていうか、周りのこと考えたから、じゃないのか」

「勝手にんなことできる立場じゃねえのはわかってる。わかってた。でもそういうことじゃない。
お前ならまあいいかと思ったんだよ。
釣り合うなんて微塵も思ってねえけどな。でもゆうかは、俺が勝手に想像してたほど不幸なわけじゃねえんだなと、思ったんだよ」


……突然の、デレというかなんというかに、俺は固まったままだった。
気味悪いとは思わない。顔つきが真剣だ。自分の気持ちを言うことが苦手なやつだってことぐらい、嫌ってほどわかっている。


「だから勝手に絶望してんじゃねえよボケ。
ただでさえ最近鈍すぎて腹立ってきてたっつーのに。これ以上腹立つこと言ってきたら裏からどうにか手ぇ回してかっさらうぞ」

「どうにかとかってあたりお前が言うと冗談に聞こえねえんだよ……。
はいはい、以後気を付けます。さっさと行けよキャプテン」

「幽霊に言われたくねえよ」

「もう幽霊でもありませんでしたー」

「なおさらだよ」


呆れたような笑いを残して、かつての敵は、俺の前から姿を消した。







< 438 / 603 >

この作品をシェア

pagetop