私立秀麗華美学園
それから、もんもんとしながら毎日を過ごした。

悲観するのは勝手だけど、それじゃあこの10カ月ぐらいのこととか、あいつに対しても失礼なことなのかもしれないと思ったので、なるべく考えないようにしておいた。

そうなったらそうなったでその時必要なことをすればいい。

俺も少しは肝が据わった人間になった。かもしれない。


過ごす時間は少なかったけれどここ数日、ゆうかの様子は変わりなかったように思う。
どうせ、冷たくなったらなったでああやっぱりそうなんだって思うだろうし、優しくなったらなったでああ最後の情けななんだって思うだろうし、とことんめんどくせーな俺。


そして前日、2月13日。歓迎会の準備もひと段落ついたということでその日の帰りは一緒だったので、別れ際に時間と待ち合わせ場所を指定された。


「レストラン予約してるから、それなりの格好でね」

「うん。わかった」


いつも通りに階段をのぼっていく姿を見送る。冷たい、寮と寮とを繋ぐロビーの中で、そんな俺をコンシェルジュだけが見ている。

結局、レストラン以外に行くつもりの場所は言われなかったし、街に行く目的とかも何にも言われなかった。
ということはやっぱり、一緒に行くことに意味があるのだろう。


部屋に戻ると雄吾がいて、なぜか、床中に洋服がずらりと並べられていた。


「ただいま……これ、俺の服だよな……」

「おかえり。ああそうだ。明日着て行く服装を、考えている」

「え? 雄吾も出かけんのか?」

「何を言ってる。お前の服だ」


どーんと当然のように言われたので、お言葉に甘えることにした。雄吾が見立てた方がいいに決まってるし。
なんか知らんが雄吾の方が気合い入ってる気がする。咲が絡んでるんだろうか。


「明日、雄吾は?」

「都合良くお前がいないので、部屋に呼んで、咲と一緒にチョコレート菓子を作る」

「ああそっか、チョコレートな」


中等部の頃はバレンタインっつったらそりゃもう大変だった。
何しろクラス中の女子がクラス中の男子に箱入りを贈るのだ。いつもお世話になっています、という形で。

その時はそれが普通だと思っていて、2月14日はチョコレート地獄の日なんだと思っていて、しかしそんなことを3年繰り返すうちに嫌気がさした生徒たちの意志によって、体裁整えるための贈り物はやめようってことになった。だってお互い困るだけだったから。

そんな自由がきくのも今のうちだけなんだということはわかりつつ、チョコレート地獄からは抜け出した。
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