私立秀麗華美学園
言葉を発すると余計にこみ上げて来そうだったので、ゆっくりとうなずいた。満足げな笑みが返ってくる。


「だから、笠井を好きになったんだったのかもしれないわ。あの人あれで、努力家なところあるでしょ」


努力家、か。いろいろな面で恵まれているやつだと勝手に思ってた
けど、それは大きな勘違いだった。気位が高いのでそれを表に見せようとはしないが、やつが人にほめそやされている様々な部分は、おそらく努力の裏付けあってのものだ。


「親御さんとうまくいってないって、本当みたいだな。そのために必要だった努力だろうな」

「そうね。もちろん、きっかけはあの事件だったけれど」


去年の夏頃。やつは俺の代わりにゆうかを守った。タイミングや運の問題であったとはいえ、「騎士」の称号が唯一とも言えるゆうかとの繋がりだった俺にとっては、本当に心の痛む事件だった。


「今では純粋に感謝できる」

「あら、余裕じゃない」

「少しは」


「諦めてやるよ」と言われたから、だけではないと思う。向こうがどうだろうが、ゆうかがあいつを好きなら同じだから。


「その、騎士って称号なんだけど。前から不思議に思ってたのよね。だって姫の相手なら王とか王子とかでしょ。
今思えばきっと、結婚のことをにおわせたくなかったのね。特別な関係性、ということだけを強調できればいいわけだから」


確かにそうだ。姫と騎士じゃ、普通は結ばれない。


「特別、だな」

「特別過ぎるわ」


一対一の関係性。他に選択肢なんてなかった。
だけど、そうだった。ひとつはっきり言っておかなきゃいけないことがあった。


「姫だから好きってわけじゃないから」


クリスマスイブの夜、狂気だと言って一途を貫く、強い女性から教わった。


「そうじゃなくて、姫だったからゆうかを好きになったんだ。気持ち的な違いだけど。
……真理子さんが、気付かせてくれた」


照れ隠しに名前を出してしまう。結局たいして変わらないことのようにも聞こえるけれど、違いを見出す意志だけでも、伝わればいい。


「……うん。わかった」


どのぐらい伝わったのかはわからない。だけど言葉以上に、ゆっくりとしたうなずきが、丁寧に受け取ったことを示してくれていた。





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