私立秀麗華美学園
「何書いてんだよ、和人」


ノートを覗き込んできたのは後ろの席の真二だった。

黒くて大きな瞳とパーマがかった茶髪が特徴。
大半の人に第一印象は『犬みたい』と言われるそうだ。
真二は中学部からの友達で、雄吾以外では恐らく一番仲がいい。
俺がそう思ってるだけかもとかゆーなよ。


「数学か? すげー角度のグラフ」


真二はノートのグラフを指でなぞりながらそう言った。


「だから困ってんだよ」

「へー。お前、数学得意じゃなかったっけ?」

「もうほっといてくれ……学祭なんか、この世からなくなればいいんだ……」


当然ながら真二は、こういう時の変な俺を知ってる。
ので、こんな時は関わらない方がいい、と正しい判断を下したらしく、口を開かず乗り出していた身を元に戻した。


「……何してるの?」


真二が合図したらしく、顔を伏せているとゆうかが近くに来た。


「学祭について少々……」

「はあ? もう? 勉強は?」

「へいへい……」

「頑張ってよね。ナーイート」


ナイト=騎士。
ゆうかにそう呼ばれたのは、物凄く久しぶりだった。
しかも、あんな優しげな微笑と共に。

冗談めいた様子で、ゆうかは呆気なく俺から視線を外して行ってしまったのだが。


「和人……」


心配そうな真二の声も今はどうでもいい。
俺は少なからず感動していた。

我ながら、これほど姫を溺愛している騎士はいまいと思う。
微笑み見せられただけでこの感動って。

テンションはだだ上がりだ。


「和人、チャイム鳴るぞ……」


真二は哀れみの視線を俺に投げているが、そんなの関係ねえ!

頭がおかしくなってきたところで、授業をちゃんと聞くことにしよう。









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