私立秀麗華美学園
空になったメイン料理の皿が下げられ、最後にデザートがきた。オレンジと白のムースが交互になった上に、様々な色をした柑橘類のコンポートが乗っている。2月が旬の伊予柑を主役にしたものだと持ってきたウエイターが説明してくれた。


「苺のミルフィーユと選べたの」


口へ運びながら、ゆうかが言った。


「和人は柑橘系の方が好きでしょう」


うん、と声を出さずにうなずいた。その二択で俺が選べるとしたら確実にこっちを選んでる。
でもたぶんゆうかが好きなのはミルフィーユの方だ、と思う。それがわかること、それでも俺の好みを当てるためにこっちを選んでくれたこと、何もかもが嬉しい。

先に俺が食べ終わって、ゆうかが最後の一口を平らげた瞬間、ウエイトレスが食器を下げにやってきた。
いくらなんでも素早過ぎる、と思ったその時、違う方向からもうひとり何かの箱を持ったウエイターが向かってきた。

制服の黒いベストの裾を翻すように早歩きでやってきて、俺たちのテーブルの前で止まる。
ゆうかの顔を見てみれば、何事か心得た様子だった。


「失礼致します」


ウエイターは、茶色い小箱と、白くて平べったい箱の2つを、なんの説明もなくゆうかに手渡す。
ゆうかがどうもと微笑むと、彼は鋭く踵を返してテーブルから離れて行った。


「はい」


茶色い箱の方を目の前にすっと出され、反射的に受け取った。


「何?」

「ハッピーバレンタイン、でしょー」


あっ、と驚きの声は喉に張り付いて音にならなかった。すっかり忘れてた。2月14日だったのだ、今日は。


「毎年、あげてはいたけど。ちゃんと選んだよ、今年のは、わたしが」


笑顔で言いつつも、なんか語順が変だ。視線も合わない。箱にかかった黒いベロアのリボンを見つめている。


「……ありがとう。嬉しい。めちゃくちゃ嬉しい。です」

「あと、これも。開けて」


白い方の箱が渡される。金色の透かし彫りが入った包装紙を丁寧に剥がして、蓋をそっと持ち上げた。
中には、紺色で布製の何かが入っていた。
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