私立秀麗華美学園
「これって……手袋…………」

「うん。欲しかったんでしょ」


片方なくしてしまって、最近困ってたとこだった。薄紙をめくって出してみる。黒に近いぐらいの濃い紺色。表面もモコモコしているし裏起毛になってて暖かそうだ。
指先まであるタイプだった。


「……デパートでわたし、変なこと言ってたでしょ。予想はしてたんだけど焦っちゃった。わたしそんなに冷え性でもないし」


デパートで手袋を見つけた時。買おうかなって言ったら指先あいてる方がいいよって言われたので、結局買わなかった。そもそも雄吾のプレゼントを選んでた時だったのに「自分用に?」と聞かれたから、変だなとは思ったのだ。


「危なかったー。和人が鈍いから助かったー」

「鈍くてよかった。ありがとう。今度は絶対なくさないよ」


バレンタイン、チョコレート以外の贈り物をもらったのはもちろん初めてだ。誕生日にこういう小物をもらうことは、あったはあったけれど、義務的というかなんというか。
目の前のゆうかの様子を見ても、今までで一番心のこもった贈り物だと言っても、差し支えないと思う。


「照れてる」

「うっさい……照れるわよ、そりゃ」

「なんで?」

「だってこんなの初めてだし」

「うん、俺も照れる」

「はぁ……何よそれ」

「嬉し過ぎてなんて言っていいかわからない」


ちょっと今日は本当にいろいろ嬉し過ぎて、怖いぐらいだった。実際少し怖かった。これ以上良いことは起こらないでくれていい、と思うぐらい。
大好きな人と一日一緒に過ごして、自分のことを見てくれてたらしくて、特別な日にプレゼントまでもらって。

ありがとう、とだけ伝えられたらどんなにいいだろう。だけど次に出てくる言葉を抑えておくのがとても難しい。

ありがとう。でもなんで?


「出よっか。食べ終わったことだし。急がなきゃ寮に着くの、9時過ぎちゃう」


幸福の中でどうしても消えない一点の染みのような不安は、あの日、初めてゆうかと一緒に帰ることを避けてしまった時の胸中にあったものと、よく似ていた。





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