私立秀麗華美学園
カードで払って外へ出る。店の外まで見送ってくれたウエイターに、ゆうかは手を振っていた。
ふつうに呼吸をしているだけでも白い煙のように息が見える。外も真っ暗ではあるが、街灯と、イルミネーションが映えていた。


「駅までちょっとあるね」

「歩こう」


密集した光が作る、繊細なライトアートをくぐっていく。
バレンタインデー仕様らしくてやたらとギラギラしたハートの連なりも見える。周囲の店も店じまいして行く中いくつもの光るアーチを通っていると、異世界に迷い込んでしまいそうな錯覚に囚われた。


「そういえば気付いてなかったみたいだけど、あのお店の名前、聞き覚えなかった?」

「えーっと……あるような、ないような……」

「あそこのオーナー、風來よ。厳密に言えば咲のお母さんの方だけど。ちょっと前に咲が言ってたはず」


言われてみれば、程度の記憶だったが確かに。
 でもそうか、だから。


「全部話してあったんだ。やけに対応速いと思ったら、注目されてたんだな」

「そうね。咲を通して。チョコレートもあのお店が契約してるところ紹介してもらったの。手袋は別のところで買って、置いといてもらうことにして。
……っていうか、手袋、使いなさいよ! 寒いのに」

「だってもったいなくて」

「もう、ぜったいそう言うと思った」


ゆうかはひたいに手を当ててため息をつく。そう言うと思ったって言われると思ってた俺は、少し苦笑いをした。


「着けた方がいい?」

「……うん。だって、せっかく選んだのに。って言っても時間なかったから、カタログ上でだけど」

「最近忙しそうだったもんな」

「そうよー。頑張って仕事終わらせてなきゃ今日、デートなんてとてもじゃないけどできなかったもの」


いろんな嬉しさと一点の不安。
そこに今の言葉と、イルミネーションの明かりで浮き上がった綺麗な横顔があって、込み上げる感情を抑えておく理由がなかった。


「好きだ」


店の立ち並ぶ通りが途切れ、明かりのない小道に差し掛かる。
隣でゆうかが一瞬、進むことをためらったような気がした。
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