私立秀麗華美学園
「病院って? 合併症? いつの間にそんなことに」
「まあ待て、順に説明する。さっきまで医務室の使いがきていたんだ。月城くんにお伝えくださいと言われ、ゆうかが30分ほど前に病院に運ばれて行ったということを知らされた。
どうやら今日の昼頃から体調が悪化したらしい。検査してみなければわからないが、保険医の見たてによれば、合併症で肺炎を引き起こしたのではないかということだ。
咲のところにも同じような知らせが来ていたらしい」
「突然のことやから悪いけど連絡できんかったって……帰ってきたら、ゆうか、おらんかった……」
鼻声で咲が続ける。俺は、込み上げてくる吐き気のような感覚と闘っていた。胃がむかむかして、何もかも吐き出してしまいたくなる。
ゆうかが苦しんでいるのに、一目も会えないままで、俺はこんなところにいるーー
「行く。病院」
「何を言ってる」
「ここじゃ会わせてくれなかった。病院行ったなら関係ないし」
「感染症なんだ。仕方のないケースだろ。それがここのルールだ」
「それにしたっておかしいだろ! 誰とも会えないまま連れていかれて! だいたい、うつったところで本望だ」
「落ち着け。確かに学園もそこまでお前を縛りはしないが、病気へ行って何になる。お前にも咲にも言い置いたことが何もないということはゆうかは意識が朦朧とした状態なのだろうし、お前にうつったら辛いのはゆうかだ。
状態を尋ねるだけなら電話でもできる。せめて、週末まで待てよ」
驚くほど冷静な雄吾の言葉になだめられ、俺はゆっくりと落ち着きを取り戻した。腰を下ろして深呼吸する。隣の咲は、おどおどした様子で俺と雄吾を交互に見ていた。
「……わかった。悪い、怒鳴ったりして」
「いや。……まあ、連れて行かれてという表現はどうかと思う一方、そう言いたくなるのもわかる。タイミングが悪かったんだろうな。お前が出てから、教室の方に連絡がいっていたのかもしれない」
ここ数日胸に蓄積していた不安とあいまって、冷静に考えることができなくなっていた。だめだ、とかぶりを振る。
ただちょっと運が悪くて、風邪が重くなってしまっただけだ。このぐらいのことで冷静さを失っているようじゃ、だめだ。
その後は雄吾が病院に連絡してくれた。ゆうかはやはり熱にうなされていて、とても電話口に出られる状態ではないらしい。
ただ肺炎の方は、抗生物質の投与で大事には至らず済みそうだということだ。
明日が金曜日だから一日だけ学校に行って、次の日の土曜日に、咲と雄吾と3人で、ゆうかに会いに行く。
少しだけでも会えたら、姿を見ることだけでもできたら、この異様な不安感も少しは払拭される。
そう信じる一方、ふと蘇ったのが、真意を聞けずにいたあの日のゆうかの言葉。
待たなくてもいいのよ
……考えるのが怖い気がして、宙ぶらりんにしていた。
あれは一体、なんだったのだろう。
「まあ待て、順に説明する。さっきまで医務室の使いがきていたんだ。月城くんにお伝えくださいと言われ、ゆうかが30分ほど前に病院に運ばれて行ったということを知らされた。
どうやら今日の昼頃から体調が悪化したらしい。検査してみなければわからないが、保険医の見たてによれば、合併症で肺炎を引き起こしたのではないかということだ。
咲のところにも同じような知らせが来ていたらしい」
「突然のことやから悪いけど連絡できんかったって……帰ってきたら、ゆうか、おらんかった……」
鼻声で咲が続ける。俺は、込み上げてくる吐き気のような感覚と闘っていた。胃がむかむかして、何もかも吐き出してしまいたくなる。
ゆうかが苦しんでいるのに、一目も会えないままで、俺はこんなところにいるーー
「行く。病院」
「何を言ってる」
「ここじゃ会わせてくれなかった。病院行ったなら関係ないし」
「感染症なんだ。仕方のないケースだろ。それがここのルールだ」
「それにしたっておかしいだろ! 誰とも会えないまま連れていかれて! だいたい、うつったところで本望だ」
「落ち着け。確かに学園もそこまでお前を縛りはしないが、病気へ行って何になる。お前にも咲にも言い置いたことが何もないということはゆうかは意識が朦朧とした状態なのだろうし、お前にうつったら辛いのはゆうかだ。
状態を尋ねるだけなら電話でもできる。せめて、週末まで待てよ」
驚くほど冷静な雄吾の言葉になだめられ、俺はゆっくりと落ち着きを取り戻した。腰を下ろして深呼吸する。隣の咲は、おどおどした様子で俺と雄吾を交互に見ていた。
「……わかった。悪い、怒鳴ったりして」
「いや。……まあ、連れて行かれてという表現はどうかと思う一方、そう言いたくなるのもわかる。タイミングが悪かったんだろうな。お前が出てから、教室の方に連絡がいっていたのかもしれない」
ここ数日胸に蓄積していた不安とあいまって、冷静に考えることができなくなっていた。だめだ、とかぶりを振る。
ただちょっと運が悪くて、風邪が重くなってしまっただけだ。このぐらいのことで冷静さを失っているようじゃ、だめだ。
その後は雄吾が病院に連絡してくれた。ゆうかはやはり熱にうなされていて、とても電話口に出られる状態ではないらしい。
ただ肺炎の方は、抗生物質の投与で大事には至らず済みそうだということだ。
明日が金曜日だから一日だけ学校に行って、次の日の土曜日に、咲と雄吾と3人で、ゆうかに会いに行く。
少しだけでも会えたら、姿を見ることだけでもできたら、この異様な不安感も少しは払拭される。
そう信じる一方、ふと蘇ったのが、真意を聞けずにいたあの日のゆうかの言葉。
待たなくてもいいのよ
……考えるのが怖い気がして、宙ぶらりんにしていた。
あれは一体、なんだったのだろう。