私立秀麗華美学園
「どこに耳つけてんだ。んなことも聞いてなかったのかよ」
「まあ、最近月城くん、HR中にガサゴソガサゴソして身支度整えては、終わった途端に教室を飛び出していたものね」
「はあ、まあ……え、いつ? 榎本先生が言ってた?」
「ええ。先週の、木曜あたりかしら。HRの最後に仰ってたわ。ヨハンたちの時とは違って、随分前から決まってはいたそうよ」
「それにしてもどこの家の出かさえ噂に聞かないものだから、驚きはしたね」
「そうねえ。たいていは、事前にどこからともなく情報が入ってくるものね」
「にしてもこんな時期に」
「家庭の事情とやらだそうだ。前の学校で何かやらかしたからなんて理由でなけりゃいいけどな」
うちの学園は性質上、途中入学に寛容ではあったが手続きに時間を要するため、二人が話していた通り事前に噂が流れているのが普通だった。
どこどこがついに息子をこの学園に入れられるようになったらしい、とか、あの家の娘がくるということはあいつがいるあのクラスに入るのだろう、とか。
転校生、というワードにうっすらと蘇りかけた何かがあったが、その時ちょうど榎本先生が教室に入ってきた。
「みなさま、おはようございます。本日も冷え込みますがご機嫌いかがでしょうか」
教室をぐるりと見渡して欠席者が増えていないことを確認したあと、先生は簡単にゆうかの転院のことについて述べた。過保護な親も多いこの環境ではそう珍しくないことながら、少しざわめきが起こる。俺の方にもうっすら注意が払われている気配があった。あまり暗い表情にはならないようつとめる。
「くれぐれも体調管理にはお気をつけくださいね。
それでは先週予告していた通り、新しいクラスメイトをご紹介することに致します。
さ、入っていらっしゃい」
一気にざわめきの種類が変わって、大きくなる。熱い視線の集まった教室のドアから現れたのは、女生徒の制服だった。とりあえず留学生とかではないらしい。颯爽とした様子で教壇へ上がる。
可愛らしい雰囲気の子だった。身長は咲と同じぐらいか。スカートの丈は短めだが制服はきちんと身につけているようだった。
ただ、驚いたのが髪の色だ。茶色にも種類はあると思うが、日本人の地毛にしては明るめで、優しい色合い。キャラメルブラウン、と、いつも呼んでいた、あの色と同じ。
「お名前は、ご自分の口から紹介していただきましょうか」
ゆうかと同じ髪の色をしたその転校生は、にっこりと笑って元気よく口を開いた。
「初めまして。花嶺 幸 って言います。ゆきちゃんって呼んでくれると嬉しいなっ」
はなみね ゆき、は、語尾にハートでもつきそうな感じで、小首を傾げて自己紹介をした。
「まあ、最近月城くん、HR中にガサゴソガサゴソして身支度整えては、終わった途端に教室を飛び出していたものね」
「はあ、まあ……え、いつ? 榎本先生が言ってた?」
「ええ。先週の、木曜あたりかしら。HRの最後に仰ってたわ。ヨハンたちの時とは違って、随分前から決まってはいたそうよ」
「それにしてもどこの家の出かさえ噂に聞かないものだから、驚きはしたね」
「そうねえ。たいていは、事前にどこからともなく情報が入ってくるものね」
「にしてもこんな時期に」
「家庭の事情とやらだそうだ。前の学校で何かやらかしたからなんて理由でなけりゃいいけどな」
うちの学園は性質上、途中入学に寛容ではあったが手続きに時間を要するため、二人が話していた通り事前に噂が流れているのが普通だった。
どこどこがついに息子をこの学園に入れられるようになったらしい、とか、あの家の娘がくるということはあいつがいるあのクラスに入るのだろう、とか。
転校生、というワードにうっすらと蘇りかけた何かがあったが、その時ちょうど榎本先生が教室に入ってきた。
「みなさま、おはようございます。本日も冷え込みますがご機嫌いかがでしょうか」
教室をぐるりと見渡して欠席者が増えていないことを確認したあと、先生は簡単にゆうかの転院のことについて述べた。過保護な親も多いこの環境ではそう珍しくないことながら、少しざわめきが起こる。俺の方にもうっすら注意が払われている気配があった。あまり暗い表情にはならないようつとめる。
「くれぐれも体調管理にはお気をつけくださいね。
それでは先週予告していた通り、新しいクラスメイトをご紹介することに致します。
さ、入っていらっしゃい」
一気にざわめきの種類が変わって、大きくなる。熱い視線の集まった教室のドアから現れたのは、女生徒の制服だった。とりあえず留学生とかではないらしい。颯爽とした様子で教壇へ上がる。
可愛らしい雰囲気の子だった。身長は咲と同じぐらいか。スカートの丈は短めだが制服はきちんと身につけているようだった。
ただ、驚いたのが髪の色だ。茶色にも種類はあると思うが、日本人の地毛にしては明るめで、優しい色合い。キャラメルブラウン、と、いつも呼んでいた、あの色と同じ。
「お名前は、ご自分の口から紹介していただきましょうか」
ゆうかと同じ髪の色をしたその転校生は、にっこりと笑って元気よく口を開いた。
「初めまして。花嶺 幸 って言います。ゆきちゃんって呼んでくれると嬉しいなっ」
はなみね ゆき、は、語尾にハートでもつきそうな感じで、小首を傾げて自己紹介をした。