私立秀麗華美学園
ざわめきはピークに達する。ゆうかの空いた席に、多くの視線が注がれていた。

はなみね ゆき。幸せと書いて「ゆき」と読む。なんだかもう懐かしいぐらいに思える髪の色で動揺したが、名前を聞いて顔を見て、やっと気付いた。そうだ、彼女はゆうかの……


「花嶺さん……幸さんは、うちのクラスのゆうかさんの従姉妹なのだそうです。残念ながら、本人は先程言った通りの状況なのですけれど。
幸さんはつい最近まで海外で暮らされていたそうですよ。お仕事の関係で日本に戻ることとなったということです」

「ゆうかちゃんと同じクラスだって聞いてたんだけど、会えてないの。インフルエンザだってね?
でも、和人くんがいるみたいだからよかったぁ」


今度こそクラス中の注目が俺に集まる。


俺は、彼女を知っていた。確か小学3年生ぐらいの、夏休みだったと思う。両親の都合か何かで幸ちゃんがゆうかの実家にしばらくの間滞在していたのだ。俺もその間何度も遊びに行っていたため、一緒に遊んだことがあった。

と言っても幸ちゃんはその数年後に家族揃って海外へ移住してしまったため会ったのはその夏限りで、移住の話もゆうかからちらっと聞いたっきりだ。
それ以来、ゆうかの口からも幸ちゃんのことを聞くことはなかったと思う。彼女の姿を目の前にして、あの頃のことを突然思い出したぐらいだ。

しかし今の幸ちゃんの言葉から、榎本先生は勘違いをしたらしかった。


「まあ、よく知った人が新しい教室にいるのは心強いことですね。あとでゆっくりお話なさるといいわ。とりあえず今は、ゆうかさんのお席を使っていてくださいな」


よろしくお願いしまーす、と頭を下げ、拍手を受けながら幸ちゃんは指された席に向かった。

突然のことに混乱しながらも、俺は、彼女が座る直前にわざわざ振り返って、自分の方に笑顔を向けてくるのを見た。
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