私立秀麗華美学園
「ごめんね、見つけて飛びついちゃった。和人くんも濡れちゃったね」

「……なんかあったの?」

「うーん……しめられた?」


よく見ると幸ちゃんは、髪が乱れていて、コートもマフラーもしていなかった。制服のブレザーは濡れて色が変わっていて、かばんも持っていない。


「しめられた?」

「あれ? そういう言い方するよね? ……えーっと、なんだっけ。藤家さん? とかに、なんていうの、呼び出されて、因縁つけられちゃった。あんなの嫉妬じゃんねー」


百合子さんたちだ。まさか、そこまでするなんて。


「はじめは3人だったけど、めんどくさくなって帰ろうとしたら、なんか増えてさー。怖くなって、逃げてきちゃった。いろいろ置いて」

「……ごめん、俺が、言っとかなかったから……百合子さんたちがよく思ってないこと、知ってたのに」

「和人くんは悪くないでしょー。ゆきだって反感買ってるのわかってないほど馬鹿じゃないもん。ってゆーか、何もされてないしさ」


ぽつぽつと、小雨だが確かな重みを持って降り続けている滴が、ひとつの傘に入った俺たちを濡らしていく。

コートは既に濡れて重くなっていたので、とりあえずマフラーを幸ちゃんの首に巻きつけた。


「わっ」

「風邪引いちゃうし、早く帰ろう。荷物は後で取りに行くから」

「……イヤ」

「え?」

「ていうか、無理。ゆきの相部屋の子、藤家さんのいとこだもん」

「でもこのままじゃ……誰か他のところに」

「ゆき、女の子の友達なんていない」


だからって男の友達のとこへ行かせられるはずもなく。
戸惑う俺を見上げた幸ちゃんは眉をひそめて、そっと唇を動かす。


「和人くんの部屋に、入れて」


< 498 / 603 >

この作品をシェア

pagetop