私立秀麗華美学園
私立秀麗華美学園の高等部は全寮制で、全生徒がハート・スペード・ダイヤ・クローバーの寮に属している。
PAK制度が適用された生徒のためのハート・スペード寮と、フリーのダイヤ・クローバー寮は完全の別の建物になり、学校からの帰り道の途中で道が分かれている。

後から思えば幸ちゃんに飛びつかれたのは、その分岐点のほんの少し手前のところだった。どういう決断をするのかは俺の意志にかかっている、と強調されているかのように。

だけど、要は「行くところがない」と言って冬空の下でびしょ濡れになった、しかもその半分は俺の責任だし、そんな女の子を、どのように扱うのが正解だったというのだろうか。


……なんてことを俺は今、やけに大きく聞こえるシャワーが響く部屋の中で、しゃちほこばって考えている。


雨脚が強まる中で押し問答を続けるわけにもいかず、結局俺は幸ちゃんを傘に入れて自分の部屋へ戻ってきた。雄吾が既に戻っていることを全力で願いながら。しかし願いは届かず、そっと開けた扉の向こうには、誰もいなかった。


「あははっ、2人っきりだねえ」

「とっ、とりあえずタオルを……」

「わぁ、男の子の部屋にしたらキッチン周り充実してるね。ゆきの部屋よりちょっと広いような気がする」

「ちょっと、雄吾の物もあるんだから勝手に触らないでよ」

「ねぇ、シャワー貸してね」


しゃ わ あ ? と固まった俺の手から幸ちゃんはタオルをかっさらい、バスルームの方へ歩いていく。


「このままじゃ、へっくしゅん! 風邪引いちゃうもん」

「いや、ちょ、シャワーって、着替えもないのに」

「和人くんのお洋服貸してよ。あっ、彼シャツってやつ?」

「いやいやいやいや、じゃあせめて、咲から服借りてくるから……」

「雄吾くんがまだなんだから、咲ちゃんもまだ帰ってないんじゃない?」

「じゃあ、ロビーでコンシェルジュに事情説明して……」

「そんなの待ってられないー。さっさとこのびっちょびちょの服脱ぎたいの!」


そう言って幸ちゃんはブレザーのボタンをはずし始めたので、俺は慌ててバスルームに押し込んだ。
しばらくするとすりガラスの向こうから楽しげに、「お洋服よろしくねー」と声が聞こえたので、俺のスウェットを置いておく。ため息をつきながら脱衣所を出ようとすると、「和人くん!」と声がかかった。
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