私立秀麗華美学園
「考える? 何を?」

「ゆきたちのこと」


指が離れ、キャラメルブラウンの髪をかきあげる。滑り落ちてきた髪が、また、さらりと頬に触れた。


「幸ちゃん、やっぱり何か知ってるの?」

「さーあね。知ってたらどうする?」

「教えてよ」

「知ってどうするの? 和人くんに何ができるの?」

「何かするよ」

「できないよ」

「できなくてもするよ」

「どうして?」

「ゆうかが」


楽しげな笑みを湛えた幸ちゃんの細められた瞳をにらみ付ける。


「好きだからだよ」


細い眉毛が、ぴくりと動いた。
柔らかなベッドの上で俺を組み敷いた幸ちゃんが徐々に顔を近づけてくる。部屋の電灯が幸ちゃんの顔に遮られて、視界がどんどん暗くなる。


「……そんなの嘘だよ」

「は?」

「昔はそうだったかもしれないけど、もうさあ、それ、何年目? 和人くんは他に女の子知らないじゃない。自分の手に入りそうな女の子。だからきっとずっと、思い込んでるだけなんだよ」

「……そんなこと幸ちゃんにわかんないでしょ」

「好きとかそういうの、永遠に続くわけじゃないんだよ。そんなわけない。だって辛いでしょ? しんどいでしょ? ひとりだけ好きなんだよ? そんなんじゃ和人くん、一生幸せになんてなれないよ?」

「違う、」

「違わない。ゆうかちゃんだってそうだよ。何年も何年も一緒にいて、それでも好きにならなかった相手を、この先、好きになることなんてある? 他にぴったりの相手がいたりするんじゃないの?」

「っ……!」


ゆうかと出会ってから、何度も何度も考えて抱え続けてきた不安をぴしゃりと指摘されて、咄嗟に返す言葉が出なかった。

半分口を開いたままで言葉を探していると耳を触られ、思わず吐息が漏れる。


「ねぇ……そんなのおかしいでしょ?」


潜められた声が耳元で囁く。幸ちゃんはゆっくりと動いて、俺の上にまたがった。水分を含んだ肌にシャツが貼り付く。


「そんな2人が一緒にいても」


顔が更に近づいて、ゆっくりと唇が降ってくる。しっとりと赤く濡れ、今にも開きそうな、何かに似た……
あれは……なんだったっけ……


「不幸になるだけなんだから」


あれは…………そうだ。


薔薇の花びらだ――――








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