私立秀麗華美学園
自分がそう信じていたのだということに、今初めて気づいた。

だって、そうだ。もしこれが1年も前のことだったら俺はきっと、ゆうかに捨てられたんだという風にしか考えることができなかっただろう。
でも今は。今回のことを、ゆうかが望んでやったことではないと信じている。何か事情があるはずだと。


それは俺たちが進んできた結果に他ならない。

それを他人に不幸だと言われる筋合いは、ないんだ。


歯を食いしばって幸ちゃんを見下ろす。しばらく沈黙が降りた。


「……あはははははっ」


突然、幸ちゃんは笑い出した。大きな口を開けて。さっきは薔薇の花びらみたいに見えた口から、幼い白さの歯がのぞいている。


「あーあ。わかったよ。ゆきの負けだね」


妖艶な表情は消え去って、いつもの笑顔になる。目の端に涙が溜まっていた。


「とりあえず、この体勢はまずいんじゃない? それこそ雄吾くん入ってきたら、誤解されちゃうよ?」

「えっ、あっ、ごめんっ」


いわゆる押し倒した状態になっていることに気づき、慌ててベッドをおりた。今更になって露わになった滑らかな肌にどきどきする。

幸ちゃんはにっこり笑うと立ち上がってバスルームへ向かった。出しっ放しだったシャワーの音が止まる。少しして出てきた幸ちゃんは俺のスウェットを身につけていた。


「さて」


幸ちゃんがベッドに腰かけたので、何が何だかわからないまま、ひと1人分の距離を開けて隣に座る。


「何から話そうかな」

「……何これ。どういうこと?」

「うん。えっとね、ゆきが和人くんのこと好きって言ったの、本当だけど、実は言ってなかったことがあったんだ。
ゆき、ちょっと前までつきあってる人がいたの」


そのことがこの展開の説明になるとはとても思えなかったのだが、おとなしく話を聞くことにした。


「イギリスでね。相手も日本人だったんだけど。
ハイスクールに入ってすぐだったから、2年近くね。つきあってて、すっごく仲も良くて、彼も良い家柄の出で優秀な人だったし、結婚も考えてたんだ。
だけど去年のクリスマスに浮気が発覚して。それも4股だよ4股。馬鹿でしょ。
それで、終わり。最後はほんとに修羅場だった。彼の実家で彼の家族と一緒にパーティーしてたら、見知らぬ女の子が3人もどやどや入ってきて。彼女たちは結託してたみたい。どういうつもりなのよ! って叫び散らして、近所中いい迷惑よ」

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