私立秀麗華美学園
「それでゆき、しばらく寝込んじゃって。精神病む一歩手前ぐらいにまでなってたんだと思う。
そんな時にお父さんが日本に帰ることになったから、ゆきもついて行くことになったの。環境を変えた方がいいって言われてね。

そんで、帰ってきたら。こういう感じ。変だなあとは思ってたの。久しぶりなのに、お父さんもゆうかちゃん一家とは会おうとしないし。なんだかいろんなことほのめかしてくるしね。
……だけど、さっきも言ったけど、ゆき、和人くんのことが好きだったのも嘘じゃないんだよ。日本離れる時、そのせいで泣いてたんだから」


膝を抱えてベッドに座るゆきちゃんはとても小さく見えた。
小3で、初めて会った頃の記憶が蘇るような錯覚がする。錯覚だ。だけどゆきちゃんには、はっきりとした記憶があるんだろう。アルバムをめくる時みたいな穏やかな表情で続ける。


「さっきの、藤家さんにしめられたっていうのは、ほんとに嘘。ゆきがいじめられてたのは何年も前だよ。
和人くんとゆうかちゃんと一緒に過ごした、小学生3年生の夏休みあったでしょ。あの直前の1学期に。きっかけなんてもう忘れちゃったけど、女の子たちに呼び出されてなんくせつけられたの。ちっちゃくても女は恐いね。

それでメソメソしてたから、ちょっと離れたゆうかちゃん一家のところに泊まりに行くことになって、和人くんとも遊んでたわけ。
一緒にいて、思ったんだ。和人くんはゆうかちゃんのことが大好きなんだなあって。和人くんはゆきにも優しかったけどさ、やっぱどっか違うの。
ゆうかちゃんが羨ましかったんだ……」

「……差別してるつもりは、なかったと思うんだけど」

「うん、そういうのじゃないのはわかってるよ。わかってる。
きっとそんなのを知っちゃったからだね。彼もゆきだけを愛してくれるものだと信じちゃってたんだろうな。
そんな夢物語が打ち破られて、だったら、小さい頃に見た2人だって同じはずだと思ったの。和人くんとゆうかちゃんだって、ずっと同じまま続いてるわけない! ってね。しかも好きなのは片方だけ、の、はずだったし」


ゆきちゃんは抱えた膝に頭を乗っけて、悪戯っ子の瞳で俺を見る。


「ゆきもそう思うよ」

「え?」

「ゆうかちゃんは和人くんのこと、好きになろうとしてる、ていうか、もう好きかもね」


そのことを俺が自ら発言するのにものすごい勇気が必要だったことを見越したみたいに、ゆきちゃんは笑っている。


「……だといいですけど」

「照れてるー。もっともっと自信持ったらいいのに和人くん。
いいこと教えてあげよう。この件、少なくともゆうかちゃんが言い出したことじゃないみたいだよ。
ゆきがゆうかちゃんと会わせてもらえないとこ見ると、ゆうかちゃん、きっと行動が制限されてるんだと思うな。見張られてるかも。
……ゆうかちゃんはきっと、和人くんに会いたいと思ってるよ」
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