私立秀麗華美学園
「あーあっ!」
息を吐きだすと幸ちゃんは身体をベッドに投げ出した。
「もうちょっとだったのになあ。ゆきが和人くんのこと好きなの、きっとお父様はわかってたんだろうなあ。せっかくセッティングしてくれたのに」
「もうちょっととか怖いこと言わないで……」
「うふふ。流されそうだった?」
「流されるっていうか、幸ちゃんがすごい図星なこと言うから、抵抗する気力が一瞬なくなっちゃって、ちょっとやばかった」
「……さっき言ったことももちろんほんとだけど、実は和人くんに拒否されて、ほんのちょっとだけほっとしたかも。和人くんとゆうかちゃんはさ、ゆきにとって、理想でもあったから。
人なんて、気持ちなんて、変わるものなんだって思いたかったくせに、変わってなかったことに安心してるの。よくわかんないね」
「変わるのは悪いことばっかじゃないと思うよ。とらえ方によっては進んでるってことだと思うし」
ゆうかの場合、幸ちゃんが見ていた当時からは変わっててくれてるって信じたいわけだし。
「和人くんってポジティブなのかネガティブなのかわかんないよね」
「ポジティブだと思うけど、小心者だから常に最悪の想定はしときたいんだよ」
「ゆき、やっぱりゆうかちゃんが羨ましいな」
光があたって金糸のような髪がベッドの上で扇状に広がっている。キャラを演じていたのか、今の幸ちゃんは数時間前より話し方もしっかりしていて、声のトーンも落ち着いていた。
皮肉なことかもしれないけれど、演じていた時よりもゆうかに似て見える。
「好きにならなきゃよかったと思ったことはないって言ったけど、もしも代わりがきくなら、もっと気楽に生きてこられたかもとは思うよ。
でも代わりなんてきかない。誰も。唯一無二の存在がいるっていうのは幸せなことだと思うけど、だからこそかえって弱みになっちゃうな」
「普通は辛いって言うよ。やっぱりポジティブなんだね」
くすくすと笑って、ゆきちゃんは勢いよく上体を起こした。
「こんな勝手なことして、怒られちゃうなー。イギリスでのこと和人くんに言っちゃだめって言われてたんだけど。最初はいけるかなって思ったのに最近は和人くんしゃっきりしてきたから、こんなことしても意味なさそうだし、もう話しちゃいたかったんだ。
好きになってくれたらなってくれたでゆきはそれでもよかったんだけどー」
「ありがとう教えてくれて。でも、これからどうしよう」
「うちの親や和人くんのご両親のことだし、本人の意志をまったく無視ってことはないって信じとこうよ。話をする機会が来たら、ゆきはちゃんと和人くんの味方してあげるよ」
「ありがとう……幸ちゃん、ごめんね」
「いーの。だいたいゆきもさ、ゆきの好きなのって、ゆうかちゃんのことが好きな和人くんって気がしてきたし」
雄吾が帰ってくる頃には外の雨もやんでいた。咲に服を借りて、日が落ちるのも遅くなった夕暮れの道を幸ちゃんの寮まで送って行った。
帰ってきた時、玄関ホールの鉢植えに密集したピンク色のつぼみの中で白い花が一輪だけ花開いていることに気づいて、ゆうかが帰ってきたら名前を教えてもらおうと思った。
息を吐きだすと幸ちゃんは身体をベッドに投げ出した。
「もうちょっとだったのになあ。ゆきが和人くんのこと好きなの、きっとお父様はわかってたんだろうなあ。せっかくセッティングしてくれたのに」
「もうちょっととか怖いこと言わないで……」
「うふふ。流されそうだった?」
「流されるっていうか、幸ちゃんがすごい図星なこと言うから、抵抗する気力が一瞬なくなっちゃって、ちょっとやばかった」
「……さっき言ったことももちろんほんとだけど、実は和人くんに拒否されて、ほんのちょっとだけほっとしたかも。和人くんとゆうかちゃんはさ、ゆきにとって、理想でもあったから。
人なんて、気持ちなんて、変わるものなんだって思いたかったくせに、変わってなかったことに安心してるの。よくわかんないね」
「変わるのは悪いことばっかじゃないと思うよ。とらえ方によっては進んでるってことだと思うし」
ゆうかの場合、幸ちゃんが見ていた当時からは変わっててくれてるって信じたいわけだし。
「和人くんってポジティブなのかネガティブなのかわかんないよね」
「ポジティブだと思うけど、小心者だから常に最悪の想定はしときたいんだよ」
「ゆき、やっぱりゆうかちゃんが羨ましいな」
光があたって金糸のような髪がベッドの上で扇状に広がっている。キャラを演じていたのか、今の幸ちゃんは数時間前より話し方もしっかりしていて、声のトーンも落ち着いていた。
皮肉なことかもしれないけれど、演じていた時よりもゆうかに似て見える。
「好きにならなきゃよかったと思ったことはないって言ったけど、もしも代わりがきくなら、もっと気楽に生きてこられたかもとは思うよ。
でも代わりなんてきかない。誰も。唯一無二の存在がいるっていうのは幸せなことだと思うけど、だからこそかえって弱みになっちゃうな」
「普通は辛いって言うよ。やっぱりポジティブなんだね」
くすくすと笑って、ゆきちゃんは勢いよく上体を起こした。
「こんな勝手なことして、怒られちゃうなー。イギリスでのこと和人くんに言っちゃだめって言われてたんだけど。最初はいけるかなって思ったのに最近は和人くんしゃっきりしてきたから、こんなことしても意味なさそうだし、もう話しちゃいたかったんだ。
好きになってくれたらなってくれたでゆきはそれでもよかったんだけどー」
「ありがとう教えてくれて。でも、これからどうしよう」
「うちの親や和人くんのご両親のことだし、本人の意志をまったく無視ってことはないって信じとこうよ。話をする機会が来たら、ゆきはちゃんと和人くんの味方してあげるよ」
「ありがとう……幸ちゃん、ごめんね」
「いーの。だいたいゆきもさ、ゆきの好きなのって、ゆうかちゃんのことが好きな和人くんって気がしてきたし」
雄吾が帰ってくる頃には外の雨もやんでいた。咲に服を借りて、日が落ちるのも遅くなった夕暮れの道を幸ちゃんの寮まで送って行った。
帰ってきた時、玄関ホールの鉢植えに密集したピンク色のつぼみの中で白い花が一輪だけ花開いていることに気づいて、ゆうかが帰ってきたら名前を教えてもらおうと思った。