私立秀麗華美学園
「実は、しきたりなのです。花嶺ではなく、私の家の。娘を嫁にやる相手には必ずこういった種の試練を与え、その結果が認められるものでなければ相応しいとは言えないと。ですから、もちろんこの人も何十年か前に、合格してきたものなわけですけれども」
淳三郎さんを見ると、ふんと視線をそらされる。試練……そうか、それで、りえさんは、泣いて。
「もちろん和人くん、あなたも。合格だなんて偉そうなことを言うのは気が引けますけれど。期待以上の気概を見せていただきました。何の文句のつけようもなく、娘をお願いできます」
再び頭が下げられるのと同時に、ゆうかが繋いだ手を前後に揺らした。さっき言われたことが、現実のものとして立ち現われてくる。それで突然……。なるほど、とは思ったがそんなに突然全てのことに納得がいったわけじゃなかった。
「えっと、事情はわかったんですけど、協力って……ここにいる、全員?」
「私たちとゆうかに加え、幸、月城家の方々、側近のお2人、雄吾くんには、はじめっから全てをお話していましたね……咲ちゃんは、途中からでしたかしら」
後で咲に聞いた話によると、雄吾と共にホテルに来た時点では本当にゆうかがさらわれたのだと思っていたらしい。種明かしをされたのはその日の夜で、つまり、俺がホテルを出る際交わした握手が無言だったのは、気持ちを言葉にできなかったからではなく、下手に何も言えなかったからなのだという。
雄吾に関しては事情を知っていたどころか一緒になって計画を練っていたというが、もう驚きもしなかった。
「笠井様たちにはですね、ご協力をお願いしましたが、結果的にお互い様、という形です。
進くんだけは、たった先ほどまで、本当に何もご存知なかったのです」
みんなの視線が進と、ご当主たちの方へ向く。不機嫌そうな顔で、しかし父親の方に不安げな視線を送っている進は、まだ事情の全てを知っているわけでは無さそうだった。
「……では、続きのお話をさせてもらうとしましょうかね」
ゆったりと、朗読でも始めるかのように口を開いたのは進の父親だ。声を聞いたのは初めてだった。低く逞しい声が、鼓膜を響かせる。
「何やら、我々は悪者というふうに考えられているようで。まあ別に構やせんけどもな。お前がしている、決定的な勘違いだけは、なんとしても解いておかにゃならんわけだ」
決定的な勘違い。お前、と見据えられた進は、身体を固くしながらも、父親と向かい合っていた。
淳三郎さんを見ると、ふんと視線をそらされる。試練……そうか、それで、りえさんは、泣いて。
「もちろん和人くん、あなたも。合格だなんて偉そうなことを言うのは気が引けますけれど。期待以上の気概を見せていただきました。何の文句のつけようもなく、娘をお願いできます」
再び頭が下げられるのと同時に、ゆうかが繋いだ手を前後に揺らした。さっき言われたことが、現実のものとして立ち現われてくる。それで突然……。なるほど、とは思ったがそんなに突然全てのことに納得がいったわけじゃなかった。
「えっと、事情はわかったんですけど、協力って……ここにいる、全員?」
「私たちとゆうかに加え、幸、月城家の方々、側近のお2人、雄吾くんには、はじめっから全てをお話していましたね……咲ちゃんは、途中からでしたかしら」
後で咲に聞いた話によると、雄吾と共にホテルに来た時点では本当にゆうかがさらわれたのだと思っていたらしい。種明かしをされたのはその日の夜で、つまり、俺がホテルを出る際交わした握手が無言だったのは、気持ちを言葉にできなかったからではなく、下手に何も言えなかったからなのだという。
雄吾に関しては事情を知っていたどころか一緒になって計画を練っていたというが、もう驚きもしなかった。
「笠井様たちにはですね、ご協力をお願いしましたが、結果的にお互い様、という形です。
進くんだけは、たった先ほどまで、本当に何もご存知なかったのです」
みんなの視線が進と、ご当主たちの方へ向く。不機嫌そうな顔で、しかし父親の方に不安げな視線を送っている進は、まだ事情の全てを知っているわけでは無さそうだった。
「……では、続きのお話をさせてもらうとしましょうかね」
ゆったりと、朗読でも始めるかのように口を開いたのは進の父親だ。声を聞いたのは初めてだった。低く逞しい声が、鼓膜を響かせる。
「何やら、我々は悪者というふうに考えられているようで。まあ別に構やせんけどもな。お前がしている、決定的な勘違いだけは、なんとしても解いておかにゃならんわけだ」
決定的な勘違い。お前、と見据えられた進は、身体を固くしながらも、父親と向かい合っていた。