私立秀麗華美学園
「プロジェクト、だとか大仰に銘打たれていた例のやつ。手酷いやり方で前途ある若者たちを支配していた、あれだがな、ありゃあ私の仕業ってぇわけじゃ、ないんだな。あれの本当の黒幕は、進、お前がよく知っとる、じじいの方だよ」

「じーさんが……!?」

「だから公の活動は、じじいの死んだ2年前に終わっとる。具体的な目的なんぞ知ったこっちゃないが、じじいが死んでからも、内部の勢力は地下で動いとった。目星はついとったから、今回のことで一掃できた形になるな、おそらく。
万が一奴らの悪事を今の代になすりつけられちゃあかなわんもんで、内々に処理する中でも、証人的に立ち会ってもらったわけだ。いやぁな噂についちゃあ、こちらさん方元々ご存知だったようだからな」

「お前たち4人がこのことを偶然知ってしまったことについても、風來さんから聞いてたんだ。咲ちゃんに、あのことについて尋ねられたと。それで利用させてもらうことにしたんだよ。まさにお互い様だ」


親父が俺たちに向かってこっそりと説明を加える。


「あれ? じゃああの社報は? 確か雄吾が風邪引いた日に、ゆうかが言ってた……」

「あれはミスリード。ちょうどあの頃かな、わたしが今回のことについてお母さんから話聞かされたの。生物学者が協力なんて、別に珍しくもなんともないけど、わたしの言い方、それっぽく聞こえたでしょ?」


そんな時から、ゆうかは知っていたということか。確かにおおごと感を出されていたせいで今回突然に大元が笠井だと聞かされた時も、すんなり納得してしまった。

一旦話を切って、進の父親は大きな咳払いをする。どうやら進の反応を伺っているようだった。
俯いて拳を握りしめていた進は、顔を上げると切羽詰まったような声で噛みついた。


「……だったら、どうして、俺には教えてくれなかったんです! 俺がじーさんに贔屓されてたせいですか? 俺はずっと、あなたに、敵対勢力とみなされていたんですか!?」


父親のことを「あなた」と呼んでたたみかける進の剣幕に、一瞬、場は静まり返った。あの雅樹でさえも居心地が悪そうに下を向いている。
笠井家現当主、は、なんとも仕方無さそうに、口を開く。


「違うとは、言いきれんな」

「そんっ……!」

「進ちゃん」


誰よりも冷静な声で口を挟んだのは、愛さんだった。思いがけないところから諌めを受けた進は、一瞬だけ燃え上がったろうそくみたいに、表面的な平静を取り戻した。


「お話を最後まで、聞いて差し上げて」


愛さんのつくり出した凪の中で、進の父親がまた口を開く。
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