私立秀麗華美学園
……そうして、いろんな人たちに見送られて、俺たちは2人でこのバスの中にいる。

行き先は聞いていないがうちのホテルだろうか。みのるに、また後ほどと言われたし。


「さて問題です」


少し走って、林道を抜けたあたりでゆうかが言った。


「和哉さんが言ってた、聞きたい点、それは一体どれでしょうー」

「あれって、兄ちゃんにとって予想外の出来事があったってこと?」

「うん」

「よくわかんないけど、一個だけ思い当たるのは、手紙」

「せいかーい」


ゆうかから届いた手紙。あれを読んだのが今朝のことだなんて到底思えない。あれからまだ、半日も経っていないなんて。


「和哉さんたちにとって不意打ちだった、つまり私たちが勝手にやったことが、いくつかあるのよねー。そのひとつがあの手紙。抑留中のわたしから手紙が届くなんて筋書きは、もともとありませんでした」

「私たちっていうのは、みのると真理子さんのこと?」

「そうそう。すっごくいろんなこと協力してくれたわ」


そうか。確かに手紙を持ってきたのはみのるだった。フロントに置いてあったとか、言ってたけど。兄ちゃんの困惑っぷりは相当なものだったが、それもそのはず、俺よりも困惑していたわけだ。


「ちゃんと気づいてくれた?」

「……ヒメジオン?」

「そう! 手紙の内容はどうでもよかったんだけどね、先に和哉さんに見られちゃった場合を考えて」

「でもだったら、直接俺に渡してもらえばよかったのに」

「だったらあんな暗号めいたものにしないわよ。あくまでしきたりの範囲内で、和人に伝えたかったの。自信がなかったから」

「自信が?」

「うん。…………やっぱり、最初から話していくね。ゆっくり。時間はたくさんあるし」



バスが、角を曲がって大きく揺れる。がらりと空いた車内の中で、俺たちの声だけが響いている。
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