私立秀麗華美学園
「お母さんの言うしきたりのことはずっと前から知ってたの。母方の実家、久遠家で受け継がれているもの。久遠家はずっと婿を取ってたんだけど、お母さんの代で初めてお嫁に行くことになったのね。だからその次の代まで継いで行くかは迷っていたそうだけど、お祖父さんがやるって言い張ったんだって」
「淳三郎さんも受けた試練だって」
「らしいね。あんまり詳しくは教えてくれないんだけど。
知ってはいたけど、それが本当に和人相手に行われるとは、正直思ってなかったというか、考えたことがなかった。実行するよって言われたのが去年の秋頃。学園祭の前あたりね。
だからさあ、もめたくなかったんだよね、あんまり。それで余計にぎくしゃくしちゃったけど」
「めちゃくちゃぎくしゃくしてたよな。いかにもぎくしゃくって感じ」
「なのに和人は他の女の子とやたら喋ってて、いらいらして、これって嫉妬なんだなあって気づいて……でも別に好きな相手じゃなくてもちょっとした嫉妬ぐらいするよなあとか、わたしの中では思ってて」
「へー」
「まあでもあのあたりわたし機嫌良かったでしょう。この気分屋のわたしが。
それから……咲たちのことがあって……クリスマスパーティーね。あの日久しぶりに会った真理子に、年が明けたら幸がこっちに帰ってくるって聞いた。それもあったし、あの日は本当に、辛かった……わたしたちが生きなければいけない世界のことを、改めて考えさせられたから」
そういえば、あの日ゆうかはとてもしんどそうにしていたんだった。真っ白な頬を今でも思い出せる。
「わたしたちの学校、私立秀麗華美学園。人目を気にして気を張って生きなければいけない世界で、わたしには、わたしのことをわたし以上にわかって、見守ってくれる人がいつも傍にいた。和人はずっと安心感を与えてくれていたの。
それを、ぜったいに失いたくない、失ったらきっと今までのようには生きていけない、と思った。
……今思い出したけど、そういえばおんなじようなこと、那美さんに言われたんだった」
「那美さん、俺の中で超曲者なんだけど。あのパーティーの日の衣装のこととかも」
「那美さんってね、わたしたちが知ってる以上に真理子と仲良いのよ。真理子と稔さんと共謀してわたしが勝手にやったことも、もしかしたら全部知ってるかも。
クリスマスぐらいには結構勝手にいろいろ決めてたから、テラスに出てから、和人と真理子が下へ行った時にわたし、稔さんに話してたの。協力してくださいって」
「それでみのるは?」
「しきたりのことはなんとなくだけ教えられていたらしいけれど、わたしがぜーんぶ話しちゃったから、ありがとうございますって。お嬢様の仰せのままに、って言われた。
結局和哉さんに逆らう形になることをいろいろと稔さんにかぶってもらっちゃったから、本当にきちんとお礼を言わないと」
クリスマスイブの夜。みのるは、俺に幸せになって欲しいのだと言った。
整理してみれば、みのるが真理子さんと通じていたことは、どっきりの事情があったわけだから咎められることではないが、さっき言っていた手紙の場面でも、兄ちゃんとみのるの間にはピリピリした空気があった。
兄ちゃんが一時的な自分の感情だけで人を切り捨てるような人間ではないにしても、これからは、俺が守れるのだとしたら守りたい。みのるには、物心がついた頃からよくしてもらってきたのだ。
「淳三郎さんも受けた試練だって」
「らしいね。あんまり詳しくは教えてくれないんだけど。
知ってはいたけど、それが本当に和人相手に行われるとは、正直思ってなかったというか、考えたことがなかった。実行するよって言われたのが去年の秋頃。学園祭の前あたりね。
だからさあ、もめたくなかったんだよね、あんまり。それで余計にぎくしゃくしちゃったけど」
「めちゃくちゃぎくしゃくしてたよな。いかにもぎくしゃくって感じ」
「なのに和人は他の女の子とやたら喋ってて、いらいらして、これって嫉妬なんだなあって気づいて……でも別に好きな相手じゃなくてもちょっとした嫉妬ぐらいするよなあとか、わたしの中では思ってて」
「へー」
「まあでもあのあたりわたし機嫌良かったでしょう。この気分屋のわたしが。
それから……咲たちのことがあって……クリスマスパーティーね。あの日久しぶりに会った真理子に、年が明けたら幸がこっちに帰ってくるって聞いた。それもあったし、あの日は本当に、辛かった……わたしたちが生きなければいけない世界のことを、改めて考えさせられたから」
そういえば、あの日ゆうかはとてもしんどそうにしていたんだった。真っ白な頬を今でも思い出せる。
「わたしたちの学校、私立秀麗華美学園。人目を気にして気を張って生きなければいけない世界で、わたしには、わたしのことをわたし以上にわかって、見守ってくれる人がいつも傍にいた。和人はずっと安心感を与えてくれていたの。
それを、ぜったいに失いたくない、失ったらきっと今までのようには生きていけない、と思った。
……今思い出したけど、そういえばおんなじようなこと、那美さんに言われたんだった」
「那美さん、俺の中で超曲者なんだけど。あのパーティーの日の衣装のこととかも」
「那美さんってね、わたしたちが知ってる以上に真理子と仲良いのよ。真理子と稔さんと共謀してわたしが勝手にやったことも、もしかしたら全部知ってるかも。
クリスマスぐらいには結構勝手にいろいろ決めてたから、テラスに出てから、和人と真理子が下へ行った時にわたし、稔さんに話してたの。協力してくださいって」
「それでみのるは?」
「しきたりのことはなんとなくだけ教えられていたらしいけれど、わたしがぜーんぶ話しちゃったから、ありがとうございますって。お嬢様の仰せのままに、って言われた。
結局和哉さんに逆らう形になることをいろいろと稔さんにかぶってもらっちゃったから、本当にきちんとお礼を言わないと」
クリスマスイブの夜。みのるは、俺に幸せになって欲しいのだと言った。
整理してみれば、みのるが真理子さんと通じていたことは、どっきりの事情があったわけだから咎められることではないが、さっき言っていた手紙の場面でも、兄ちゃんとみのるの間にはピリピリした空気があった。
兄ちゃんが一時的な自分の感情だけで人を切り捨てるような人間ではないにしても、これからは、俺が守れるのだとしたら守りたい。みのるには、物心がついた頃からよくしてもらってきたのだ。