私立秀麗華美学園
「……そういえば、ゆうかが病院から電話かけてきた時に、みのるが『舞子様のお言いつけに逆らったのは初めてです』って」

「うん。あの電話も、シナリオにはなかったこと。学園離れてからは、和人とは接触しないことになってたんだけど、手紙と電話で2回も連絡取っちゃったね。ほんとに監視の目かいくぐってたから緊迫感あったでしょ」

「いやもうすっかり信じてたから……でも、おかげで頑張れたと思う。ここまで。幸ちゃんとは全然違うなって思ったし」

「ってことは、やっぱり、似てると思った? 幸なんかしてきた? 流されそうにならなかった?」

「流され……たり、し、してな」

「ぜったいなったでしょ! まあ、その時のことは後ほど幸にゆっくりお聞きするとして」


なんかしてきたどころじゃない気がするけど、いや、俺からは何もしてないし、流されそうにならなかったとは言えないけど、結局流されなかったし……穏便に事を運びたいけど、幸ちゃんは、そうはしてくれないだろうなと思った。
それどころか根も葉もないことまで言い出しそうだ。なんとしてでも同席して弁解しなくては。


「どこまで話したっけ、えっと、クリスマスがあって、披露パーティーに行って、年明けに椿先生にお話を伺って……そうだなあ、年明けぐらいにはわたし、このどっきりの実行めちゃくちゃ不安に思ってたなあ」

「それで、バレンタイン?」

「そう。わたしはね、自信がなかったの。自分の気持ちを伝えられている自信がね。
和人のことをちゃんと知ろうと思ったっていう、あの時言ったことなんかも全部嘘ではないの。だけど、離れることになる前に、何か大きなことを残しておきたくて。
だから自分で服を選んで、お化粧して、レストランとかセッティングして。プレゼントも用意して……」


プレゼント、でぎくりとした。あの時にもらった手袋は、寮の机の上に置いたままだった。


「……使ってないね?」

「だっ、だってなんか忘れ形見みたいになりそうで、見るの辛くて」

「もう春じゃない……だから使ってって念押したのに……そういえばその話した後だ、和人、いきなり好きだって言ってきたでしょ」


言ったというか、気付いたら呟いていたのだ。


「好きだなあって思ったから」

「あのね、もうね、あの時のわたしの辛さは一生誰にも理解してもらえないと思う。いい雰囲気で、不意打ちで、ストレートに言われて、よっぽど『わたしも』って言ってやりたかったわよ! どんっだけ必死でこらえたことか!」
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