私立秀麗華美学園
「……わたしも、って……」


横顔のゆうかがゆっくりとこちらを向いた。真正面からその顔を見た時に、綺麗だとか可愛いだとか、そういうことよりも先に、間違いなく自分の好きな人が隣に座ってるんだなという事実に対して、感動みたいなものを覚えてしまった。

いつの間にか傍にいることが当たり前になっていたことに気付く。考えてみれば離れていたのは1か月程度だ。会えなかった時間に凝縮された思いが、ゆるゆると溶けて積もっていく。


「いろいろすっとばしちゃって、ちゃんと言ってなかったね」


大型バスの後部座席。ロマンチックだとかは言えるような場所じゃなかったけれど、一生忘れない光景なんだろうなと思った。俺たちのために用意された場所。

ゆうかの左手が俺の右手に重なる。潤みを帯びた瞳に長いまつげが、繊細な線を描き出す。こんなに間近で顔を見たことはなかったかもしれない。だけどもう、その唇が紡ぐ言葉を疑いはしなかった。


「わたしは和人のことが好き」


重ねられた細い指がぎゅっと力を込める。少しだけ低いゆうかの体温が俺の手に馴染んでいく。


「……信じてもらえないかもしれないから、何度でも言うけど、わたしは和人が……」

「信じるよ」


眉根を寄せながら重ねて言った、ゆうかの肩を抱く。背中に手をまわしたら簡単に届いて、当たり前なのに初めて知った小ささに驚いた。力の入った身体が壊れてしまわないように抱き締める。
俺の背中にもゆっくりと手がのぼってきた。頬を寄せると柔らかな髪が肌を撫でる。


「俺ちゃんと信じてたよ。伝わってたから。伝わってきたから」

「ほんとに? ちゃんと伝わってた? 全然自信なくって……」

「だって、プロポーズもしてくれたし」

「もう!」


顔を上げると、涙を溜めた目と視線が合った。心なしか顔が赤い。


「したけど、勢い余ってしたけど」

「俺もゆうかが好きです。ずっとずっとゆうかだけを愛してます。だからこちらこそ、結婚を前提に、これからもよろしくお願いします」

「いっ、今更、何言ってるのぉっ」


結婚してください、は、また改めて俺が言わなきゃなって思った。声を震わせてゆうかは泣き出してしまう。こんなに泣いたゆうかを見たのはいつぶりだろう。
流れる涙に手を伸ばすことを、一瞬ためらって、そのまま頬を撫でた。気付いたら自分も泣いてた。

お互いの鼻声を笑って、重ねられた手を握り返した。
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