私立秀麗華美学園
「それで、俺は一応第一段階を突破したみたいなことになったわけ?」
「幸から連絡が来たからね。なびきませんでしたよーみたいなこと言ってた。
さっきも言ったけどわたしは、和人が幸の方にいっちゃうかも! なんて心配は、してなかったんだよ。不安に思わなかったわけじゃないけど、和人にはわたししかいないって自信あるから」
「……はい」
「ちょっと今更照れないでくれるこっちが恥ずかしいから。
だからまあどっきりでもなんでもやってくださいって気持ちでもあったんだけど、でも、それだけじゃ本当にクリアしたとは言えないなあと思ったの。
和人がわたしに愛されてるって自信を持って初めて、わたしたちはちゃんと恋人同士になれるんだろうなって」
バレンタインのデートの帰り道。仮にあの時ゆうかから「わたしも」という返事をもらっていたとして、俺はそれを素直に受け入れられただろうか。何か裏があるんじゃないかとか、まったく疑わずに。
「……うん。確かに、俺たちには必要だった。ゆうかはゆうかで、しきたりのこと利用してたんだ」
「そういうことだね。誘拐されっぱなしじゃ悔しいからね」
「じゃあ風邪も引いてなくて、病院にも行ってなかったなら、ずっとあの建物にいたの?」
「ううん。お母さんとかだまさなきゃいけなかったから、3日ぐらいだけ真理子の知り合いが勤めてる病院の個室特別にとってもらって、その後みのるさんのお友達にお世話になって、風邪治りましたーって顔で自分の家戻って、あの旅館に来たの、昨日の夜よ」
「俺が誘拐の話聞いたのもおとといの朝だもんな……みのるの心配して、親父じゃなく兄ちゃんとやりあわなきゃいけなくて、進と会って話聞いて、雄吾と咲にも会って、それから今朝か……3日も経ってないとか信じられない」
「わたしにとっても長かった。今までで一番和人に会いたかった」
嘘だ、とも思わないし、本当に? とわざわざ聞き返す無粋もしない代わりに、なんて返せばいいのかわからなくて、言われ慣れてなさが露呈するし、ゆうかも言い慣れてなさで黙ってるし、世の恋人たちはいったいどうやって愛を伝え合っているんだろう。
「……昨日の夜にほとんどの方が集まってくださってね、和音さんとか、那美さんとか、いくら和人でも怒るかもしれないから覚悟してなきゃね、なんて仰ってたけど、やっぱり全然怒らなかったね」
「どっきりに対して? 必要なことだったってわかったし、今はひたすらほっとしてるだけなんだけど、たぶん後でいろんなことめちゃくちゃ恥ずかしくなるんだろうな……」
「お父さん説得してたとことか、みんな聞いてたしね。あの部屋カメラついてたから、わたしも2階で聞いてた」
「えっ、全部?」
「ぜーんぶ」
恥ずかしすぎて、ひどい、人権侵害だ、とか言いたかったけど、それでもやっぱりもうなんでもよかった。今に辿り着くまでに必要なものだったなら、なんだっていい。
「一生かけて」
一文字一文字に力を込めてゆうかが言う。握った手に力がこもる。
「わたしだって、和人のこと守るから」
姫と騎士の関係も飛び越えて。
10年かけて繋いだ手に確かなぬくもりを感じながら、俺とゆうかは笑い合った。
「幸から連絡が来たからね。なびきませんでしたよーみたいなこと言ってた。
さっきも言ったけどわたしは、和人が幸の方にいっちゃうかも! なんて心配は、してなかったんだよ。不安に思わなかったわけじゃないけど、和人にはわたししかいないって自信あるから」
「……はい」
「ちょっと今更照れないでくれるこっちが恥ずかしいから。
だからまあどっきりでもなんでもやってくださいって気持ちでもあったんだけど、でも、それだけじゃ本当にクリアしたとは言えないなあと思ったの。
和人がわたしに愛されてるって自信を持って初めて、わたしたちはちゃんと恋人同士になれるんだろうなって」
バレンタインのデートの帰り道。仮にあの時ゆうかから「わたしも」という返事をもらっていたとして、俺はそれを素直に受け入れられただろうか。何か裏があるんじゃないかとか、まったく疑わずに。
「……うん。確かに、俺たちには必要だった。ゆうかはゆうかで、しきたりのこと利用してたんだ」
「そういうことだね。誘拐されっぱなしじゃ悔しいからね」
「じゃあ風邪も引いてなくて、病院にも行ってなかったなら、ずっとあの建物にいたの?」
「ううん。お母さんとかだまさなきゃいけなかったから、3日ぐらいだけ真理子の知り合いが勤めてる病院の個室特別にとってもらって、その後みのるさんのお友達にお世話になって、風邪治りましたーって顔で自分の家戻って、あの旅館に来たの、昨日の夜よ」
「俺が誘拐の話聞いたのもおとといの朝だもんな……みのるの心配して、親父じゃなく兄ちゃんとやりあわなきゃいけなくて、進と会って話聞いて、雄吾と咲にも会って、それから今朝か……3日も経ってないとか信じられない」
「わたしにとっても長かった。今までで一番和人に会いたかった」
嘘だ、とも思わないし、本当に? とわざわざ聞き返す無粋もしない代わりに、なんて返せばいいのかわからなくて、言われ慣れてなさが露呈するし、ゆうかも言い慣れてなさで黙ってるし、世の恋人たちはいったいどうやって愛を伝え合っているんだろう。
「……昨日の夜にほとんどの方が集まってくださってね、和音さんとか、那美さんとか、いくら和人でも怒るかもしれないから覚悟してなきゃね、なんて仰ってたけど、やっぱり全然怒らなかったね」
「どっきりに対して? 必要なことだったってわかったし、今はひたすらほっとしてるだけなんだけど、たぶん後でいろんなことめちゃくちゃ恥ずかしくなるんだろうな……」
「お父さん説得してたとことか、みんな聞いてたしね。あの部屋カメラついてたから、わたしも2階で聞いてた」
「えっ、全部?」
「ぜーんぶ」
恥ずかしすぎて、ひどい、人権侵害だ、とか言いたかったけど、それでもやっぱりもうなんでもよかった。今に辿り着くまでに必要なものだったなら、なんだっていい。
「一生かけて」
一文字一文字に力を込めてゆうかが言う。握った手に力がこもる。
「わたしだって、和人のこと守るから」
姫と騎士の関係も飛び越えて。
10年かけて繋いだ手に確かなぬくもりを感じながら、俺とゆうかは笑い合った。