私立秀麗華美学園
「まあでもこんな日の主役がひとりになる瞬間なんてあるわきゃねーよな。悪いけどこれ、那美に渡しといてもらえねーかな。機会なかったら土の上に捨てといてくれりゃいいし」
「そんな……でも……」
いたたまれなくて、那美さんの方を見る。清廉な白い衣装で笑う花嫁。会わせるべきじゃないか……と花を受け取ろうとした時、零さんが「やべっ」と呟いた。視線の方向を見ると、なんと、兄ちゃんがこちらを見ていた。
まずいことになった。何か言い訳をしに行こうと駆け寄ると、しばらく無表情で零さんを見ていた兄ちゃんは、少し離れたところにいた那美さんに声をかけに行った。
那美さんが零さんの方を見て驚く。どうやら兄ちゃんは、行ってこいと言っているようだった。しかしながら那美さんは「でも……」と、躊躇した様子で2人の顔を交互に見ている。
零さんは今にも立ち去ってしまいそうだった。その時、兄ちゃんが身をかがめて、那美さんの耳元で何か呟いた。そして……誰もが注目するその最中で、キスをした。
「……すぐに、戻ります」
顔を赤らめた那美さんが、思わずといった様子で見入ってしまっていた零さんに駆け寄って行く。乱雑につかんだドレスの裾を派手に揺らしながら。兄ちゃんは那美さんのご両親に軽く頭を下げて「失礼しました」と淡泊に申し述べる。
俺は焦って口を開いたまま何も言えずに、腕組みをして堂々と立つ兄ちゃんを見つめていた。
「そーいや、和人を知ってると言ってたな。あいつ」
「え、ああ、学園で……」
「年始のパーティーにも来たくせに。昔から、大した行動もできないくせに諦めの悪いやつだった」
「ちょっとー、見せつけてくれるじゃない。諦めの悪いやつ、って、どーすんの、今あのまんま、花嫁さらっていかれちゃうかもよ」
「何を言ってる」
にやつく姉ちゃんに兄ちゃんが余裕のため息をつくと同時に、那美さんが振り返った。零さんはこちらに向かって頭を下げてから、足早に去って行く。
「永遠の誓いを、1時間で破られてたまるかよ」
かっこよさげに前髪を払った兄ちゃんは、走って来た勢いのまま抱きついてきた那美さんの真っ白なフリルの山に、軽々と押し倒されたのだった。
「そんな……でも……」
いたたまれなくて、那美さんの方を見る。清廉な白い衣装で笑う花嫁。会わせるべきじゃないか……と花を受け取ろうとした時、零さんが「やべっ」と呟いた。視線の方向を見ると、なんと、兄ちゃんがこちらを見ていた。
まずいことになった。何か言い訳をしに行こうと駆け寄ると、しばらく無表情で零さんを見ていた兄ちゃんは、少し離れたところにいた那美さんに声をかけに行った。
那美さんが零さんの方を見て驚く。どうやら兄ちゃんは、行ってこいと言っているようだった。しかしながら那美さんは「でも……」と、躊躇した様子で2人の顔を交互に見ている。
零さんは今にも立ち去ってしまいそうだった。その時、兄ちゃんが身をかがめて、那美さんの耳元で何か呟いた。そして……誰もが注目するその最中で、キスをした。
「……すぐに、戻ります」
顔を赤らめた那美さんが、思わずといった様子で見入ってしまっていた零さんに駆け寄って行く。乱雑につかんだドレスの裾を派手に揺らしながら。兄ちゃんは那美さんのご両親に軽く頭を下げて「失礼しました」と淡泊に申し述べる。
俺は焦って口を開いたまま何も言えずに、腕組みをして堂々と立つ兄ちゃんを見つめていた。
「そーいや、和人を知ってると言ってたな。あいつ」
「え、ああ、学園で……」
「年始のパーティーにも来たくせに。昔から、大した行動もできないくせに諦めの悪いやつだった」
「ちょっとー、見せつけてくれるじゃない。諦めの悪いやつ、って、どーすんの、今あのまんま、花嫁さらっていかれちゃうかもよ」
「何を言ってる」
にやつく姉ちゃんに兄ちゃんが余裕のため息をつくと同時に、那美さんが振り返った。零さんはこちらに向かって頭を下げてから、足早に去って行く。
「永遠の誓いを、1時間で破られてたまるかよ」
かっこよさげに前髪を払った兄ちゃんは、走って来た勢いのまま抱きついてきた那美さんの真っ白なフリルの山に、軽々と押し倒されたのだった。