私立秀麗華美学園
「そんでー、ゆうかたちも、あそこでしよ」

「……どーする?」


組んだ両手の上にあごを乗せて、ゆうかの視線だけが俺の方に向けられる。
顔色をうかがうのではなく、やり取りそのものを楽しむような会話。激動の2か月を経て、ゆうかの声は依然よりいっそう色艶を帯びたような気がする。


「いいよ。いっそこっちが先に挙げちゃおう」

「えー! 何それなんか嫌! ぜったい先にやる!」

「そんなタイミング当人同士だけで決めらんないわよ」

「俺たちは長男長女だが、和人はまだお姉さんもいらっしゃるしな。兄弟順とも限らないが」

「あーそんなん全然全然。何気に俺たちのことゆうかの両親より俺の両親がめちゃくちゃ喜んでるから、意外とほんとに早かったりするかもな」


式場やこの会場は学園から距離があったため、前泊したホテルで、1か月前のボイコットの埋め合わせを兼ねて両親と夕食をとった。兄ちゃんと那美さんは別行動だ。両親と三人きりで話をしたのなんて、いつ以来のことだろうか。

親父には、聞いておかなければならないことがあった。あの数日間に与えられた情報の、どこからどこまでが本当で、嘘だったのか。真夜中のラウンジで、騒がしい夜景を眺めながら話したこと。


「あの時話したことは本当だよ。だからこそ私は、シナリオにはない動きをして、無理にホテルまで戻ってきたんだ。おかげで随分遅い時間になってしまったが」


俺とゆうかは婚約者として出会わされたわけではなく、出会った結果婚約者になった――

別に何が変わるわけでもなかったけれど、あの日の話が本当か嘘か、それだけでも知っておかなくちゃと思った。そしてそういうわけなら、俺はいっそう親に感謝しなければならないのだ。


「ゆうかと出会ったのって、小2の時だろ? よくそんなくそがきの言う通りにしてくれたよな」

「和人は覚えてないかしら。別に、またあの子と会いたいーとか、お願いだからー、とか、口に出して言ってたわけじゃないのよ」

「なのにわかりやすかったな。外食すれば、あの時ゆうかちゃんがずっと飲んでたノンアルコールカクテルと同じ色の飲み物ばかり飲んで。花と聞けば花嶺さんを思い出したのか、目を輝かせたりして」

「ふふふ。宏典さんは、どうしたんだあいつはぁ、なんて言って、全然わかってなかったけど、私にはちゃあんとわかったのよ。だって私が宏典さんと出会った時と、まるで一緒だったんだもの」


ふわっふわの髪型にふわっふわの白い洋服。母さんがいかにも楽しそうに人生を送っているのは、そんな相手と結婚できたからかもしれない。
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