私立秀麗華美学園
息を吸えば春の薫りがするような、温かく緩やかな空気。学園までの道なりの元気な桜の樹はまだまだ力一杯花弁を舞い散らしている。
新しい一日の始まり。で、学生にとっては、新しい、一年の始まり。
高校3年の、春の日。
「ゆうか!」
俺は手を振り上げ、愛しの姫の名を呼んだ。
明るい色の髪がふわりと揺れ、桜色の空気の中で姫は振り返る。
ゆっくりと、その愛らしい唇が動かされた。
「和人、遅い」
「ええっ!? だって、いつも通りの時間……」
「新学期は、いつもより早くに登校したいのっ」
な、なんという横暴。姫は、いつも通りに、気まぐれな顔をつんとそらして先に歩き始めてしまう。
「だったら昨日のうちに言ってくれればさ。何分前でも、何十分前でも、何時間前にでも、待ってるのに」
「だって、ついさっき思ったの」
「……ああそうですか……」
慌てて並んで歩き始める。そうっと覗き込んでみるとなんでもない顔をしていたので、別に機嫌が悪いわけでもないらしい。要は、朝の挨拶だった。
ありがたいことに俺たちは今年も、姫と騎士として、新しい学年を迎える。ただそれが、前と同じ関係であるのかどうかは、別の話だ。
ゆうかがスクールバックを片手に持ち替えた。反射的に、空いた左手を見つめてしまう。
「……今の行動に意味はありませんから」
「わっ、わかってるよ。俺だって、学園内では、恥ずかしい、し……」
「そう」
と、前を向きつつ、3,4歩進んだところで急に右手をぎゅうっと握られた。
「…………!?」
「そう言われると、握ってやりたくなるのが、わたしなのよねえ」
ふふんと余裕めいた小悪魔の微笑み。嫌なわけはない。わけはない、けど。思わずぶんぶんあたりを見回す。近くに人はいないが、寮から学園までの一本道なので、当然前後には人影があった。
「まあ確かに、別に見られて、不都合もな、い……」
「じょーおだんよ」
あっけなく放された手がぶらりと大きく揺れる。
まったくもっていつまでたっても、花嶺ゆうかは、俺を好き放題に振り回す女の子なのだった。
新しい一日の始まり。で、学生にとっては、新しい、一年の始まり。
高校3年の、春の日。
「ゆうか!」
俺は手を振り上げ、愛しの姫の名を呼んだ。
明るい色の髪がふわりと揺れ、桜色の空気の中で姫は振り返る。
ゆっくりと、その愛らしい唇が動かされた。
「和人、遅い」
「ええっ!? だって、いつも通りの時間……」
「新学期は、いつもより早くに登校したいのっ」
な、なんという横暴。姫は、いつも通りに、気まぐれな顔をつんとそらして先に歩き始めてしまう。
「だったら昨日のうちに言ってくれればさ。何分前でも、何十分前でも、何時間前にでも、待ってるのに」
「だって、ついさっき思ったの」
「……ああそうですか……」
慌てて並んで歩き始める。そうっと覗き込んでみるとなんでもない顔をしていたので、別に機嫌が悪いわけでもないらしい。要は、朝の挨拶だった。
ありがたいことに俺たちは今年も、姫と騎士として、新しい学年を迎える。ただそれが、前と同じ関係であるのかどうかは、別の話だ。
ゆうかがスクールバックを片手に持ち替えた。反射的に、空いた左手を見つめてしまう。
「……今の行動に意味はありませんから」
「わっ、わかってるよ。俺だって、学園内では、恥ずかしい、し……」
「そう」
と、前を向きつつ、3,4歩進んだところで急に右手をぎゅうっと握られた。
「…………!?」
「そう言われると、握ってやりたくなるのが、わたしなのよねえ」
ふふんと余裕めいた小悪魔の微笑み。嫌なわけはない。わけはない、けど。思わずぶんぶんあたりを見回す。近くに人はいないが、寮から学園までの一本道なので、当然前後には人影があった。
「まあ確かに、別に見られて、不都合もな、い……」
「じょーおだんよ」
あっけなく放された手がぶらりと大きく揺れる。
まったくもっていつまでたっても、花嶺ゆうかは、俺を好き放題に振り回す女の子なのだった。