私立秀麗華美学園
「そういえばさ」


さっき寮の玄関を出る時に、突然思い出したことを尋ねる。


「エントランスの隅に、変わった花があるなって。いつだったかな。確か、幸ちゃんから転入の真相を聞いた日だから、もう1か月以上も前か。気づいて、ゆうかに聞こうと思ってたんだった。色々ありすぎて忘れてたよ」

「どれのこと?」

「鉢植えのやつ。ピンクのつぼみが密集してるんだけど、開くと花は白くって」

「あー、それなら、沈丁花かな。確かにいわゆるお花っぽくはないかも。でもあの花はね、時期的に、春の開花ラッシュを告げる花だと思うわ」

「春の開花ラッシュ……花開く、季節かあ」


怒涛のように思えた高校2年の1年間。その最後の1ヶ月はこれまた怒涛で、たっくさんの新しいことがあった。
久遠家の掟、大規模なドッキリ。俺は姫との再スタート。進は家族との和解、旅立ち。それからつい先日、名実共に夫婦となった大切な人たち。

ゴールだと思っていたものが、実はスタートだった。そんな場面にたくさん立ち会ったような気もする。そして俺たちも。
ここから、やっと始まるのだ。


「あっ、咲たちだ」


後ろから追い付いてきた2人。そういえば、この2人はいつの間にか変わらない関係代表みたいになってるよなあ。1年前に、今のような強固さはなかった。


「おっはようっ! クラス、どうなるかなあ」

「あーそっか。和人とはどうせ一緒だから忘れてた」

「4人で同じクラスになったのは……初等部6年が最後か?」

「3クラスしかねーのに、なかなかならないもんだよなあ」

「部屋が一緒な分、引き裂かれてたりしてね」

「最後の年やしさあ、一緒にしてくれへんかなあ」


そうか。4人でこの道を歩くのも、あと1年か。
高等部、最後の1年。進路のこともちょくちょく話題に出てきてはいた。咲と雄吾も進学するつもりではいるようだが、まだどうなるかわからない。どこに進むのかということも。俺たちは、まだ半分だけ自由を持っていて、だからこそきっとまだまだたくさん、悩んでいくのだろう。
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