私立秀麗華美学園
高等部の校舎に着く。煉瓦造りの厳めしい建物に、煌びやかな大時計。一日に何回も鳴らされる巨大な鐘。昇降口の隣にクラス発表の掲示がしてあって、周りは人で溢れ返っていた。
「どーしよ。ちょっとどきどきしてきたかもしれへん。ゆうかと同じクラスがいいなあ」
「どうせ雄吾とばっかりいるくせに」
「雄吾もっ、ゆうかもっ、あたしの好きな人はみんな一緒がいいのー!」
「…………お、」
「あっ、和人もおってもええで」
張り紙はまだ見えない。斜め前に、懐かしい2人の顔があった。冴えない眼鏡と、彼に寄り添った小柄な女の子。かつての「特別な生徒」。堂本と三松だ。
花嶺家月城家の企てに乗っかり、息子の進を試した笠井家当主のもうひとつの思惑が、秘密裡に妙なプロジェクトを進めていた前当主派の一掃。進の祖父にあたる人が亡くなってからも内部に存在した不安勢力。
プロジェクトの内容云々ではなく、現当主はそれらの派閥を完全に処理してしまいたかったのだという。前当主の後ろ盾がなくなった時点で開発チームも覇気を欠く状態となり、そもそもプロジェクト自体も大してうまくいってはいなかったというが。
とにかく、この間の件によって、遺伝子がどうのなどという夢物語は全ておじゃんに。笠井家の中での勢力図が少し変わり、次期当主としての雅樹の立場がいよいよ確実になったらしいと噂も聞くが、どうなのだろう。奴はこの春学園を卒業した。タイミングとしては完ぺきだ。
そんなわけで、学園に何人かいた特別な生徒たちは、それまでの制約を失った。目立たないように、関係がばれないように。これからは、フリーの生徒と同じ、家のしがらみがない分普通よりも恋愛などに関しては自由とすら言えるかもしれない。
今学園にいる生徒に関しては、これまでのことを口外しないことを条件に、笠井家が卒業まで面倒を見るのだという。
特別な才能を持った、いずれ各界で名を馳せる可能性のある人物には違いない。本来は掘り起こすまでに手間暇のかかる人材だ。せっかくなのだから後ろ暗さのない援助をしておいて損はないだろうと、笠井家当主の笑い声が想像できるようだった。
「和人くん、おっはよー!」
後ろから突然腕をつかまれたと思ったら、幸ちゃんだった。彼女は今年度から正式に、学園に入るのだという。もちろん、フリーの生徒として。
「おはよう、久しぶり。幸ちゃん、髪切ったんだ」
「そーなのっ。ゆうかちゃんに似せる必要がなくなったからねっ。ゆきはゆきで、ゆきとして、和人くんにアピールしていくことにしましたっ!」
…………んんん?
「どーしよ。ちょっとどきどきしてきたかもしれへん。ゆうかと同じクラスがいいなあ」
「どうせ雄吾とばっかりいるくせに」
「雄吾もっ、ゆうかもっ、あたしの好きな人はみんな一緒がいいのー!」
「…………お、」
「あっ、和人もおってもええで」
張り紙はまだ見えない。斜め前に、懐かしい2人の顔があった。冴えない眼鏡と、彼に寄り添った小柄な女の子。かつての「特別な生徒」。堂本と三松だ。
花嶺家月城家の企てに乗っかり、息子の進を試した笠井家当主のもうひとつの思惑が、秘密裡に妙なプロジェクトを進めていた前当主派の一掃。進の祖父にあたる人が亡くなってからも内部に存在した不安勢力。
プロジェクトの内容云々ではなく、現当主はそれらの派閥を完全に処理してしまいたかったのだという。前当主の後ろ盾がなくなった時点で開発チームも覇気を欠く状態となり、そもそもプロジェクト自体も大してうまくいってはいなかったというが。
とにかく、この間の件によって、遺伝子がどうのなどという夢物語は全ておじゃんに。笠井家の中での勢力図が少し変わり、次期当主としての雅樹の立場がいよいよ確実になったらしいと噂も聞くが、どうなのだろう。奴はこの春学園を卒業した。タイミングとしては完ぺきだ。
そんなわけで、学園に何人かいた特別な生徒たちは、それまでの制約を失った。目立たないように、関係がばれないように。これからは、フリーの生徒と同じ、家のしがらみがない分普通よりも恋愛などに関しては自由とすら言えるかもしれない。
今学園にいる生徒に関しては、これまでのことを口外しないことを条件に、笠井家が卒業まで面倒を見るのだという。
特別な才能を持った、いずれ各界で名を馳せる可能性のある人物には違いない。本来は掘り起こすまでに手間暇のかかる人材だ。せっかくなのだから後ろ暗さのない援助をしておいて損はないだろうと、笠井家当主の笑い声が想像できるようだった。
「和人くん、おっはよー!」
後ろから突然腕をつかまれたと思ったら、幸ちゃんだった。彼女は今年度から正式に、学園に入るのだという。もちろん、フリーの生徒として。
「おはよう、久しぶり。幸ちゃん、髪切ったんだ」
「そーなのっ。ゆうかちゃんに似せる必要がなくなったからねっ。ゆきはゆきで、ゆきとして、和人くんにアピールしていくことにしましたっ!」
…………んんん?