私立秀麗華美学園
子供みたいにゆうかにしがみついていた咲も落ち着いてきて、ぐずぐず言いながらも、きちんと椅子に座った。大量のティッシュの山がごみ箱に消え、雄吾が取ってきた飲み物が目の前に置かれる。


「はぁ……疲れた……」

「……俺からも謝りたいけどさ、巻き込んでごめんとは、言いたくないんだよな」

「うん。むしろ巻き込んで欲しかってん。でも、仮にあたしも全部事情聞かされてたら、雄吾みたいに上手に知らんふりは、できんかったと思う。理屈ではちゃんとわかってる。それで2人の邪魔になったらもっと嫌やったし、ちゃんと納得はしてます」

「ホテルに来て話聞いてくれた時に、咲が言ってくれたこと嬉しかったんだよ。ゆうかが俺のためを思って手を切るってのは、おかしいって。それが俺のためにならないのを一番わかってるのはゆうかだ、って」

「はぁ……なんかそんなことも言うた気がするけども……その夜遅くに事情全部聞いて、びっくりして安心して泣いて、次の日ゆうかから手紙来てびっくりして、和人と無事に再会できたの確認して泣いて、ほんでから今自分もゆうかに会えてほっとして……疲れたわ……って、ゆうかたちの方が疲れてるよな」

「確か2人共、それぞれの家に一旦帰ることになっていたはずだったよな……? 『今から帰るから』って、さすがに突然で驚いた」

「悪い。雄吾なら起きてるかなと思って」

「どうせやったら昨日一緒に帰りたかったけど……2人が朝帰りするとは思わんし……」

「朝帰りって、確かに帰ってきたのは朝だけどっ、人聞き悪い言い方しないでよね」


みのると真理子さんの手引きもありつつ、両家の食事会をボイコットしてこっそり逃げてきた俺たちは、バスを乗り継いで駅に向かった。終電の2本手前ぐらいの列車には乗れたはずだったのだが、遅延のせいで乗り継ぎに失敗し、終電を逃してしまう。


「乗り継ぎ駅に、系列のホテルがあって幸運だったわ。和人、顔パスだったもの。お互い運賃ぐらいしか持たないで馬鹿みたいに飛び出してきちゃったから」

「おかげで親には一瞬で連絡されたし、問答無用で部屋は2つ確保されたけどな」

「なんや、つまらん」


すかさず言った咲に、ゆうかがでこぴんの構えをする。



まあ、部屋が2つ確保されたってのは、ただの事実なわけで。

昨晩俺とゆうかが、違う部屋で眠りについたのかどうかってのは、また別の話なんだけどな。
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