私立秀麗華美学園
「…………」

「…………」


ものすごく最高に気まずい沈黙が訪れた。

耐えられなくなったらしく、ゆうかはあさっての方向を見ている。
いや、顔はそちらを向いているが、横目で俺の出方を伺っている。


「見てたの……」

「ごめんなさいすいませんもうしわけございません」


俺の一言により、ゆうかの表情は不機嫌になったかと思われたが、それは一瞬のことで、ふっと息を吐き出した後は、なぜか微笑んでいた。


「綺麗、よね。ここ。いつ見ても」


そして無難に景色の話をし始めた。
ゆうかは薔薇の大輪を見渡し、しゃがみ込んで一輪の薔薇にそっと触れた。

とても様になっているその姿の方が、誰からも綺麗に見えると思うんだが。


「知ってた? 私の一番好きな花が、薔薇。花言葉、すごいのよ。愛情、美、気品。それから、しとやか、可憐、温かい心……」


多くの人に語りかけるように話しながら、ゆうかは立ち上がり、あたりに漂う甘い香りを目いっぱい吸い込んだ。


「薔薇を見るたび、思うのよ。こんな人間になりたいのになって。しとやかさも可憐さも、微塵の温かい心も持ち合わせていない私は」

「そんなこと……」


愛情、美、気品

薔薇の多くある花言葉というものの中で、ゆうかに当てはまるものといえばそれだろう。

可憐、しとやか、温かい心

皆無とは言わずとも、ゆうかにぴったりかと言われると。


「いいわよ。自覚してるもの。うちみたいな家柄の一人娘に相応しい、守りたくなるような美少女とはかけ離れているって」


淡々とした口調でそう言うと、ゆうかはすっくと立ち上がり


「前から聞きたかったんだけど」


予想外に強気な、いつものような口調で、何か答えにくい質問をする時の前置きのようなことを言い出した。


「どうしてわたしのこと好きなの?」


……答えにくううう……
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