私立秀麗華美学園
「ほら、答えてよ」


はあ。
一瞬で鼓動の回数が5倍にもなったような気がする。

待て、もう一回、落ち着け俺。
ここで、何かよさげな答えださねえと。


「人を好きになるのに、理由なんていらな……」

「ふざけたこと言ってないで真面目に答えて」


ふざけてなんか……ないとは言えない。


「答えられない?」

「いや……」


俺がゆうかを好きだということは、何があっても変わらない。
と、自分では思っている。

なのにその理由を聞かれると、なぜだか返事に困るんだ。


「かわいいから」

「私よりかわいくて綺麗な子なんて掃いて捨てるほどいるわ」


いやいや何を仰っているんだか。そんな人間この世に存在しません。俺視点。

でもただ容姿が好みだからなんて、それだけがこの9年間の理由であっていいわけがない。


「うーん、頭いいし、運動できるし、なんでもできるし」

「それが何だっていうのよ」


怒らせるかと思っていたが、そのゆうかの声は怒りとは程遠い……どちらかと言えば、あきれたような声色だった。


「偶然、許婚になった相手。それがまあそれなりの外見で、生理的に好かないってわけじゃなかったから、自分の運命を受け入れるために、好きだと思い込んでたんじゃない?」


そう言い放ったゆうかは、驚くほどに沈んでいた。

自分の運命を受け入れるために。
思い込み。


「そんなことは、ない」

「じゃあ答えてみなさいよ! こんな強情で可愛げのない自己中女のどこがいいっていうのよ!?」

「言葉にできない感情だってあんだよ!」

「だとしたって、和人が本当に私と許婚であることを喜んでいるとは思えないのよ!」

「好きだっつってんだろ!」

「理由言いなさいよ! 根拠示しなさいよ!」

「それがなんか知らんができねんだよ!」


こんなに激しくゆうかと言い争ったのは、出会って以来初めてのことだった。


< 71 / 603 >

この作品をシェア

pagetop