私立秀麗華美学園
今更だが言っておく。俺の頭には最初から、監督の試験官に事情を離すなどという選択肢は存在していなかった。


笠井もゆうかもいる教室で、そんなまねはしたくない、俺だって、プライドというものを多少は持ち合わせているのだ。

確かに普段のへたれっぷりからすれば、そんなことはなんでもないことのように思える。
プライドを捨てさえすれば芯がもらえるというのなら、恐らく俺はマルクス=アウレリ以下略の王が登場なさった時点でそうしていただろう。


しかしだ。
運悪く今回の試験官は、サボり魔の俺を目の敵にしている体育教師だった。

目の敵というか、あれはもう敵対しているという域に達する。
そして俺は俺で、あいつから不平な扱いを受ければ受けるほど反抗していたので、恐らくあいつは世界で一番俺のことを憎んでいる人間だと思われる。


というわけで、そういうわけで、こういうわけなのだ。




準備は完了。さあ来い大問8!
1cm足らずの鉛の線を携え挑む。


……終わった。


大問8:ガンダーラ様式の仏像とグプタ様式の仏像の絵を正確に書き、その特徴、共通点、相違点を余すことなく書き示せ。


それ世界史じゃなくね?
どっちかっつーと美術じゃね?
だからこんなに解答用紙広かったんですね。
うすうす気づいてはいたんですけど、見て見ぬふりをしていたんですよ。


余すことなく、は無理だと思うが、大体半分ぐらいならわかる気がする。
わかるが、今回の問題はそこじゃない。

正確にということは、ガンダーラの方の特徴である、衣服のひだなども書かなければならない。
というかそれ以前に、この短さで、この震える手では、この広い解答用紙に仏像さん2体分の輪郭を書くことすらままならないかもしれない。


あああせっかく覚えたのに。
グプタ様式の仏像の特徴「目を半ば閉じた優美で気品のある顔」とか覚えたのに。こんなもん知ってて何の役に立つんだ。ほんんっまそれやんなー!(咲のあいの手)とか言い合いながらも覚えたのに。


絶望の淵に絶たされた俺は、口角をひきつらせつつ顔を伏せた。
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