私立秀麗華美学園
「えっ、とおー……」


咲の目は泳いでいる。
なぜ今出現するか真二。今までろくに登場しなかったくせに。一体誰の陰謀だ。


「ぐだぐだ言ってても、しかたないでしょ!」


ゆうかはすっくと立ち上がった。ような雰囲気だったがもともと立っていたので、背筋をおもくそ伸ばした。


「わかってたことじゃない! 誰が和人の勝利を予想してたのよ!」

「そらそうやけどなあ……」

「実際なってみれば、な」


……別に誰も否定してくれるとかそんな期待は抱いてないけどさ、そこまで気持ちよく肯定されるとは思わなかったよ、俺も。


「だから、今更葬式みたいな空気で愚痴言ってても何にもならないでしょ。教室戻るわよ!」


そんな感じで俺に喝を入れたゆうかは、大股でA組の方へ歩いて行った。


「運命やってんて。仕方ないやん。ゆうかこんなことで見捨てるんやったら、とっくの昔に見捨ててるって」

「いつか報われる時も来るだろう。生きていれば、いつか。これは避けて通れない事態だったと思うしかない」


咲と雄吾は、そう言いながら俺の肩を叩き、ゆうかのあとを追いC組の方へ向かった。


俺は今世紀最大のショックを受けたかのように慰められ、たぶん、さりげなく自殺を防止されたらしい。

ショックはショックだが、ゆうかの言うように、わかってたことだし、周りの言うほど自分では落ち込んでいないつもりだ。

どっちかって言うと、咲の『こんなことで見捨てるんやったら、とっくの昔に見捨ててる』の方が、ぐさっときた。ぐえっときた。ちょっと酷い。


つーか、落ち込むより先に慰められてりゃあ、落ち込む暇がないではないか。
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