私のアオハル(理想)はそうじゃない

その日のグループ学習も無事終了、ほっとして動かして円形にしていた机を元に戻して席に着く時、事件は起こった。いや、大袈裟に事件と言っているけれど、事件だと思ったのは綾瀬本人だけだった。

浅丘優雅が、｢お疲れ、綾瀬さん｣と肩を叩いてきたのだ。生まれてこの方女子としか仲良くした事がなく、なんなら陽キャと気軽に肩を叩きあえる仲になんてなった事がなかった綾瀬。いや、正確には小学校高学年の時に陽キャの友達が居たのだが、散々いじられてほぼトラウマと化しているので綾瀬の中では無かったことになっている。まあともかく陽キャと仲良くしたことのない綾瀬は、どう対応していいか分からず固まっていた所、柳沢が｢綾瀬さん固まっとるやん、やめたりーや浅丘〜！笑｣と笑い飛ばしてくれたので、すんなりとその場は収まったが、やっぱり綾瀬には大事件で。何が事件かと言うと、綾瀬はその時、浅丘に一目惚れしてしまったのである。

綾瀬は、幼少期、それも物心着いた頃に両親が離婚、母親に付いて行ったもののたまに子供の顔を見に家に訪れる父親が大好きで、若干ファザコン気味だった。

そして綾瀬の父親は体格が良く、筋肉も凄まじいもので…浅丘も、類に漏れず体格が良く、趣味が筋トレというThe・陽キャだった。

綾瀬は昔から惚れっぽく、直ぐに惚れていた所はあったが、最近はそこまで惚れ込むことも無く、平和に過ごせていると思っていただけに、これは綾瀬にとっての大事件だった。