弥生花音 童話集 1
にじいろのようせいとうさみくん
むかしむかし、あるところに大きな森がありました。
夏休みのある日、1人の女の子が森の中をお散歩していると、女の子のしんちょうの半分くらいの、小さな、小さな、小屋を見つけました。
「小人さんの家かしら」
女の子は思うと、ドアをノックしてみます。返事はありません。
「おじゃましまぁす」
女の子はドアを開けて、はいつくばって入りました。中の天井は女の子のしんちょうより少し高いくらいだったので、女の子はホッとしました。
中を見回すと、小さなテーブルにいす、小さなお皿やカップもあります。
ほかの部屋にいくと、小さなふかふかのベッドがみっつ、あります。
「なんだか、つかれちゃったわ」女の子はつぶやくと、ベッドをまくらにして、おひるねしてしまいました。
さてさて。しばらくして、家に住む小さなうさぎが帰って来ました。
そして、びっくり!人間の女の子がベッドでねています。
(なんてかわいい子なんだろう)
うさぎさんは思いました。
起こそうにも、うさぎさんには女の子に声をかけることができません。しゃべれないのですから。
うさぎさんが困っていると、そこににじいろの羽根をもったようせいさんがあらわれました。
ようせいさんは言います。
「あなたの、3つのねがいを叶えるためにやってきました。願いごとをいってごらんなさい」
「ぼくを人間のすがたにしてください」うさぎさんはようせいさんにたのみました。
ようせいさんがステッキをふると、たちまちうさぎさんは12さいくらいの男の子になりました。
ようせいさんにお礼を言うと、男の子になったうさぎさんは眠る女の子を抱いて、大きな木の下に連れて行きました。
「起きて!起きてくれよう!!」男の子は女の子をゆさぶります。
「う・・・う~ん。だれ?」女の子が目を覚ましました。
「えっと・・・うさみ ただしっていうんだ。君は、こんなところで何をしているの?」
「う~ん。思い出せない」
(えっと、確か、お散歩をしていて・・それから・・・?)
「とりあえず、家に帰るわ」
「送っていくよ。ここは森の中だし、迷いやすいから」うさみくんがやさしく言います。
「ありがとう。おのえちょうなんだけど」
「だったら、こっち」うさみくんは、女の子の手を自然に引いて歩きだしました。
「あのね、あたし、ひろせ うらら。小学校6年生。うさみくんは?」
「ぼくも、たぶん、同じかな」
「たぶん?」うららちゃんは、ふしぎそうに聞き返します。
「じゃなかった、同じ小学校6年生。引っ越してきたんだ」
「また、会える?」うららちゃんは、うさみくんにふしぎなみりょくを感じていました。
「あした、朝9時に、森の入り口の木の下で」うさみくんが笑顔で言います。
「うん。楽しみにしてる」
うさみくんはうららちゃんを家に送り届けると、森にもどって行きました。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
うさみくんが、自分の家に帰ると、おとうさんうさぎとおかあさんうさぎがびっくりです。
「ほんとうにおまえなのかい?」
「そうだよ。ようせいさんの力で、人間になったんだ」
「ねるばしょはどうするんだい」おかあさんうさぎがしんぱいします。
そこへ、にじいろの羽根をもったようせいがまたあらわれました。
「おのえちょうの空き地に、3人の家を建てました。ひつようなものも、すべてそろっています。これが、2つ目の願いになります。そして・・・」
ようせいさんがステッキを振ると、おとうさんうさぎとおかあさんうさぎも人間になりました。
「これが、3つ目の願いでしょう?」
うさみくんはふしぎでたまりません。
「なんで、こんなによくしてくれるんだい?」
「おぼえていないの・・・?1か月前、わたしをくもの巣からすくってくれたことを」
やっとピンと来ました。
「あのときのアゲハちょうが君だったんだね」
「あのときは本当にありがとう。わたしのできるかぎりのおんがえしをするわ」
「とおりかかったのが、ぼくだっただけで、だれだって同じことをしたと思うよ」うさみくんはあわてていいます。
「そんなことない。あなたは心のやさしい男の子よ」
うさみくんは、てれてしまって、顔がまっかっかになりました。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
次の日の9時、うららちゃんは木の下でうさみくんを待っていました。たっ、たっ、たっ、とすごいスピードでうさみくんが登場。
「びっくりした。足、はやいんだね」
「いや、待たせちゃったから、急いできたんだ。僕の家はその先だよ。遊びにこない?」
「うん、うかがうわ」
2人で手をつないで、いろんな話をして・・・もうすぐで、うさみくんの家につきそうなところで、赤いスポーツカーがうさみくんめがけてすごいスピードではしってきました。
「あぶないっ!」うららちゃんは、うさみくんをつきとばしました。
「だ~ん」という音がしたかと思うと、うららちゃんがそのスポーツカーにひかれていました。スポーツカーは、そのまま走り去りました。
「うららちゃん、うららちゃん、うららちゃん・・・」
うさみくんは、叫びます。
近くにいた人が、きゅうきゅうしゃを呼んでくれました。
うららちゃんは、病院のしゅじゅつしつにはこばれます。
(なんで、ぼくは3つのねがいを全てつかってしまったんだ。うららちゃんの命を助けたいのに・・・ぼくにできることはないのか)
「大丈夫よ」ようせいがあらわれて言いました。「うららちゃんは助かるわ」
「ようせいさん・・・どうして」
ようせいさんの羽根の色はきらめくにじいろではなく、ぎんいろでした。
「わたしのにじいろの羽根をつかって、うららちゃんを助けたの」
「そんな・・・」
「だって、うららちゃんは体をはって、わたしの大好きなうさみくんを助けてくれたんだもの・・・大丈夫、少し修行すれば、また、にじいろの羽根をもらえるわ」
うさみくんの胸がじ~んとあつくなりました。
「ごめんね・・・ぼくはうららちゃんが大切だ」
わかっているわ、というようなひょうじょうで、ぎんいろの羽根のようせいさんはすがたをけしました。
しゅじゅつしつから、でてきたうららちゃんはまだ寝ていました。
「そうだ、うららちゃんのお父さんとお母さんにれんらくしないと」
昨日、うららちゃんから教えてもらっていたでんわばんごうにでんわをかけます。
すぐに、2人がやってきました。
「すみません、ぼくのせいで」うさみくんが頭を下げます。
「いや、むてっぽうなひきにげだったっていうじゃないか。君にけががなくてよかった。うららもね、いのちにべつじょうないし、すぐに歩けるようになるって」
「本当ですか?」
うさみくんの顔がかがやきました。
「もうすぐ、うららも目を覚ますだろう。うららのそばにいてくれるか?」うららちゃんのお父さんが言いました。
「はい」と言った、うさみくんの顔は、お姫さまを守る王子さまのようでした。
しばらくして、
「う、う~ん」うららちゃんが目を覚まします。「あれ?うさみくん?あたし・・・そっか、くるまにひかれて」
「痛みはどう?」うさみくんが心配げにききます。
「痛いは痛いけど・・・ねぇ、うさみくん、笑わないでね、あたし、にじいろの羽根をしたようせいさんを見た気がするの。あれ?ホントに見たのかな」
「きっとようせいさんが君を助けてくれたんだね。」
「・・・ばかにしてる?」
「してない、してない!」あわててうさみくんは言いました。「ようせい、信じるよ」
うららちゃんは、きょとん、として、「ようせいを信じる男の子もいるのね」って言った。
(うららちゃん、いつかぼくは言うことができるだろうか。ぼくが、本当はうさぎだということを。ようせいのまほうで人間に変えられたうさぎだということを。ようせいが恋をした、うさぎだということを。)
おしまい。
夏休みのある日、1人の女の子が森の中をお散歩していると、女の子のしんちょうの半分くらいの、小さな、小さな、小屋を見つけました。
「小人さんの家かしら」
女の子は思うと、ドアをノックしてみます。返事はありません。
「おじゃましまぁす」
女の子はドアを開けて、はいつくばって入りました。中の天井は女の子のしんちょうより少し高いくらいだったので、女の子はホッとしました。
中を見回すと、小さなテーブルにいす、小さなお皿やカップもあります。
ほかの部屋にいくと、小さなふかふかのベッドがみっつ、あります。
「なんだか、つかれちゃったわ」女の子はつぶやくと、ベッドをまくらにして、おひるねしてしまいました。
さてさて。しばらくして、家に住む小さなうさぎが帰って来ました。
そして、びっくり!人間の女の子がベッドでねています。
(なんてかわいい子なんだろう)
うさぎさんは思いました。
起こそうにも、うさぎさんには女の子に声をかけることができません。しゃべれないのですから。
うさぎさんが困っていると、そこににじいろの羽根をもったようせいさんがあらわれました。
ようせいさんは言います。
「あなたの、3つのねがいを叶えるためにやってきました。願いごとをいってごらんなさい」
「ぼくを人間のすがたにしてください」うさぎさんはようせいさんにたのみました。
ようせいさんがステッキをふると、たちまちうさぎさんは12さいくらいの男の子になりました。
ようせいさんにお礼を言うと、男の子になったうさぎさんは眠る女の子を抱いて、大きな木の下に連れて行きました。
「起きて!起きてくれよう!!」男の子は女の子をゆさぶります。
「う・・・う~ん。だれ?」女の子が目を覚ましました。
「えっと・・・うさみ ただしっていうんだ。君は、こんなところで何をしているの?」
「う~ん。思い出せない」
(えっと、確か、お散歩をしていて・・それから・・・?)
「とりあえず、家に帰るわ」
「送っていくよ。ここは森の中だし、迷いやすいから」うさみくんがやさしく言います。
「ありがとう。おのえちょうなんだけど」
「だったら、こっち」うさみくんは、女の子の手を自然に引いて歩きだしました。
「あのね、あたし、ひろせ うらら。小学校6年生。うさみくんは?」
「ぼくも、たぶん、同じかな」
「たぶん?」うららちゃんは、ふしぎそうに聞き返します。
「じゃなかった、同じ小学校6年生。引っ越してきたんだ」
「また、会える?」うららちゃんは、うさみくんにふしぎなみりょくを感じていました。
「あした、朝9時に、森の入り口の木の下で」うさみくんが笑顔で言います。
「うん。楽しみにしてる」
うさみくんはうららちゃんを家に送り届けると、森にもどって行きました。
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うさみくんが、自分の家に帰ると、おとうさんうさぎとおかあさんうさぎがびっくりです。
「ほんとうにおまえなのかい?」
「そうだよ。ようせいさんの力で、人間になったんだ」
「ねるばしょはどうするんだい」おかあさんうさぎがしんぱいします。
そこへ、にじいろの羽根をもったようせいがまたあらわれました。
「おのえちょうの空き地に、3人の家を建てました。ひつようなものも、すべてそろっています。これが、2つ目の願いになります。そして・・・」
ようせいさんがステッキを振ると、おとうさんうさぎとおかあさんうさぎも人間になりました。
「これが、3つ目の願いでしょう?」
うさみくんはふしぎでたまりません。
「なんで、こんなによくしてくれるんだい?」
「おぼえていないの・・・?1か月前、わたしをくもの巣からすくってくれたことを」
やっとピンと来ました。
「あのときのアゲハちょうが君だったんだね」
「あのときは本当にありがとう。わたしのできるかぎりのおんがえしをするわ」
「とおりかかったのが、ぼくだっただけで、だれだって同じことをしたと思うよ」うさみくんはあわてていいます。
「そんなことない。あなたは心のやさしい男の子よ」
うさみくんは、てれてしまって、顔がまっかっかになりました。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
次の日の9時、うららちゃんは木の下でうさみくんを待っていました。たっ、たっ、たっ、とすごいスピードでうさみくんが登場。
「びっくりした。足、はやいんだね」
「いや、待たせちゃったから、急いできたんだ。僕の家はその先だよ。遊びにこない?」
「うん、うかがうわ」
2人で手をつないで、いろんな話をして・・・もうすぐで、うさみくんの家につきそうなところで、赤いスポーツカーがうさみくんめがけてすごいスピードではしってきました。
「あぶないっ!」うららちゃんは、うさみくんをつきとばしました。
「だ~ん」という音がしたかと思うと、うららちゃんがそのスポーツカーにひかれていました。スポーツカーは、そのまま走り去りました。
「うららちゃん、うららちゃん、うららちゃん・・・」
うさみくんは、叫びます。
近くにいた人が、きゅうきゅうしゃを呼んでくれました。
うららちゃんは、病院のしゅじゅつしつにはこばれます。
(なんで、ぼくは3つのねがいを全てつかってしまったんだ。うららちゃんの命を助けたいのに・・・ぼくにできることはないのか)
「大丈夫よ」ようせいがあらわれて言いました。「うららちゃんは助かるわ」
「ようせいさん・・・どうして」
ようせいさんの羽根の色はきらめくにじいろではなく、ぎんいろでした。
「わたしのにじいろの羽根をつかって、うららちゃんを助けたの」
「そんな・・・」
「だって、うららちゃんは体をはって、わたしの大好きなうさみくんを助けてくれたんだもの・・・大丈夫、少し修行すれば、また、にじいろの羽根をもらえるわ」
うさみくんの胸がじ~んとあつくなりました。
「ごめんね・・・ぼくはうららちゃんが大切だ」
わかっているわ、というようなひょうじょうで、ぎんいろの羽根のようせいさんはすがたをけしました。
しゅじゅつしつから、でてきたうららちゃんはまだ寝ていました。
「そうだ、うららちゃんのお父さんとお母さんにれんらくしないと」
昨日、うららちゃんから教えてもらっていたでんわばんごうにでんわをかけます。
すぐに、2人がやってきました。
「すみません、ぼくのせいで」うさみくんが頭を下げます。
「いや、むてっぽうなひきにげだったっていうじゃないか。君にけががなくてよかった。うららもね、いのちにべつじょうないし、すぐに歩けるようになるって」
「本当ですか?」
うさみくんの顔がかがやきました。
「もうすぐ、うららも目を覚ますだろう。うららのそばにいてくれるか?」うららちゃんのお父さんが言いました。
「はい」と言った、うさみくんの顔は、お姫さまを守る王子さまのようでした。
しばらくして、
「う、う~ん」うららちゃんが目を覚まします。「あれ?うさみくん?あたし・・・そっか、くるまにひかれて」
「痛みはどう?」うさみくんが心配げにききます。
「痛いは痛いけど・・・ねぇ、うさみくん、笑わないでね、あたし、にじいろの羽根をしたようせいさんを見た気がするの。あれ?ホントに見たのかな」
「きっとようせいさんが君を助けてくれたんだね。」
「・・・ばかにしてる?」
「してない、してない!」あわててうさみくんは言いました。「ようせい、信じるよ」
うららちゃんは、きょとん、として、「ようせいを信じる男の子もいるのね」って言った。
(うららちゃん、いつかぼくは言うことができるだろうか。ぼくが、本当はうさぎだということを。ようせいのまほうで人間に変えられたうさぎだということを。ようせいが恋をした、うさぎだということを。)
おしまい。