弥生花音 童話集 1
キミのためにできること
むかしむかし、小さな森の中に一匹のくまがすんでいました。
くまの名前はセーラ。セーラには友達がいませんでした。「くまはこわいもの」と教えられた動物たちは、セーラに近づこうとしなかったのです。
でも、セーラは心やさしく、人一倍さびしがりやのくまでした。
ある日のこと、セーラが木の実を探していたとき、一匹の野ウサギがうずくまっているのを見つけました。どうやら、足をくじいているようです。
「ねぇ、あなた、大丈夫?」セーラはやさしく声をかけます。
「足がいたくて・・・うごけないんだ」その野ウサギは答えます。
「うちにいらっしゃい・・・てあてをしてあげる」セーラは野ウサギを抱き上げると、自分の家に連れて行きました。
ベッドにねかせて、けがをしている部分の毛をそって、湿布をはってあげます。
「ありがとう・・・ボクの名前はフィリップ。森から森を旅してるんだ。キミは?」
「セーラよ。どおりで見かけない顔だと思った。その足じゃ、当分旅はできないわね。しばらく、ここにお泊りなさい・・・わたしがこわくないなら」
「キミがこわいって?そんなわけないじゃないか」フィリップはおどろいたように言います。
「だって、わたし、くまよ。みんなこわくて近づいてこないわ。・・・そうだ、木の実のスープとパンがあるの。食べない?」
「おなかがすいてきたところだ。いただくよ」
フィリップは、食事のあいだ、いろいろな話をしました。いろいろな森で出会った友達の話、危険な目にあった話、友達とのにぎやかな夜、1人の夜に見上げた夜空のきれいだったこと・・・。
「そろそろねましょうか」セーラが言いました。
2人は1つのベッドで身をよせあうようにしてねました。セーラは小さな友達のあたたかさに、そっと涙しました。こんな日がずっと続けばいいのに。
それから毎日、セーラはフィリップのお世話を一生けん命しました。誰かのために何かをすることのよろこびをひしひしと感じているセーラなのでした。
いっぽう、フィリップは考えていました。(セーラ、キミは本当にボクによくしてくれている。キミのためにできることがボクに何かあるかな?・・・そうだ!)
ある朝、フィリップは朝早く、ベッドからするりと下りると、ドアを開けて外に出て行きました。足は、完全によくなっていました。
森のまん中の広場に集まっていた動物たち・・・野ウサギ、白ウサギ、リス、ハリネズミ、キツネ、に声をかけ、やさしいセーラのことを話しました。
「でも、しょせん、くまだろ?ボクたちを食べてしまうよ」
「そんなことない!セーラは毎日、木の実とはちみつをぬったパンを食べているのさ。ボクはずっと一緒にいたからわかる。キミたちと友達になりたがっているんだ。この足も、ていねいにてあてしてくれたし、食事をしたり、ねたりもいっしょにしてるんだよ。ホントに、ホントに、やさしいくまなんだよ」
フィリップが動物たちをせっとくしていたころ、セーラはフィリップがいなくなっているのに気づいておちこんでいました。
「きっと、けがが治って、また旅にでてしまったんだわ。でも、ひとことくらい・・・ひとことくらい・・・」
セーラは、わんわんと声を上げて泣いていました。涙がかれるほど泣いたかとおもったころ、家のとびらが開きました。
「フィリップ?」セーラがふり返ると、たくさんの、たくさんの動物たちがいました。
「セーラ・・・わたしたち、あなたのことかんちがいしていたみたい。話はフィリップから聞いたわ。いまさらなんだけど・・・わたしたちと友達になってなってくれない?」
いちばん小さな、ハリネズミのメアリが言いました。
「わたしとも」「ぼくとも」「わたしとも」ヤギに野ウサギ、ヒツジにリス、キツネに白ウサギ、おんどりにめんどりにくじゃくたちも・・・。
セーラはまた目に涙をうかべて言いました。
「もちろんよ!!わたしは、いつも、あなたたちと友達になりたいと思っていたの!!」
わ~っと、みんながセーラに抱きつきます。
「ねぇ、みんな、フィリップを知らない?」
みんなは困ったように顔を見合わせます。
「次の旅に出るって、さっき出て行ったところだよ」
セーラは、みんなを振り切ってかけだすと、丘の方に向かいました。そこにフィリップをみつけると、大声で呼びました。
「フィーリーップ!!」
フィリップが立ち止まってふり返ります。セーラは息をきらして、フィリップに追い付きました。
そして、大声で言いました。
「ばか!!ばか、ばか、ばか!!」
セーラの目はもう、涙でいっぱいです。
「セーラ・・・さよならを言うのがつらくて」
フィリップは目をそらしていいます。
「みんなが、ボクのかわりになってくれればいいな、と思って。それが、ボクのキミのためにできることかな、って」
セーラは、フィリップにやさしくキスします。
「それはちがうわ。あなたがずっと、わたしのそばにいてくれること。それがあなたがわたしのためにできることよ。誰もあなたのかわりなんてできないんだもの」
「ここでいいのかな。キミに会うためにボクは旅をしていたのかな」
「わたしは、あなたが大好きよ、フィリップ」セーラが心をこめて言います。
「ボクもキミが好きだよ、セーラ。ボクはずっとキミのそばにいる」
フィリップがセーラにあついキスで返します。
ヒュー、ヒューヒューヒュー!!
ピー、ピー、ピー、ピー!!
気がつけば、みんなが2人を取り囲んでいました。
「幸せにな」「幸せにね」
それから、2人は手をつないで、2人の家に帰り、いつものように食事をして、あったかなベッドでくっついて眠りました。
おしまい
くまの名前はセーラ。セーラには友達がいませんでした。「くまはこわいもの」と教えられた動物たちは、セーラに近づこうとしなかったのです。
でも、セーラは心やさしく、人一倍さびしがりやのくまでした。
ある日のこと、セーラが木の実を探していたとき、一匹の野ウサギがうずくまっているのを見つけました。どうやら、足をくじいているようです。
「ねぇ、あなた、大丈夫?」セーラはやさしく声をかけます。
「足がいたくて・・・うごけないんだ」その野ウサギは答えます。
「うちにいらっしゃい・・・てあてをしてあげる」セーラは野ウサギを抱き上げると、自分の家に連れて行きました。
ベッドにねかせて、けがをしている部分の毛をそって、湿布をはってあげます。
「ありがとう・・・ボクの名前はフィリップ。森から森を旅してるんだ。キミは?」
「セーラよ。どおりで見かけない顔だと思った。その足じゃ、当分旅はできないわね。しばらく、ここにお泊りなさい・・・わたしがこわくないなら」
「キミがこわいって?そんなわけないじゃないか」フィリップはおどろいたように言います。
「だって、わたし、くまよ。みんなこわくて近づいてこないわ。・・・そうだ、木の実のスープとパンがあるの。食べない?」
「おなかがすいてきたところだ。いただくよ」
フィリップは、食事のあいだ、いろいろな話をしました。いろいろな森で出会った友達の話、危険な目にあった話、友達とのにぎやかな夜、1人の夜に見上げた夜空のきれいだったこと・・・。
「そろそろねましょうか」セーラが言いました。
2人は1つのベッドで身をよせあうようにしてねました。セーラは小さな友達のあたたかさに、そっと涙しました。こんな日がずっと続けばいいのに。
それから毎日、セーラはフィリップのお世話を一生けん命しました。誰かのために何かをすることのよろこびをひしひしと感じているセーラなのでした。
いっぽう、フィリップは考えていました。(セーラ、キミは本当にボクによくしてくれている。キミのためにできることがボクに何かあるかな?・・・そうだ!)
ある朝、フィリップは朝早く、ベッドからするりと下りると、ドアを開けて外に出て行きました。足は、完全によくなっていました。
森のまん中の広場に集まっていた動物たち・・・野ウサギ、白ウサギ、リス、ハリネズミ、キツネ、に声をかけ、やさしいセーラのことを話しました。
「でも、しょせん、くまだろ?ボクたちを食べてしまうよ」
「そんなことない!セーラは毎日、木の実とはちみつをぬったパンを食べているのさ。ボクはずっと一緒にいたからわかる。キミたちと友達になりたがっているんだ。この足も、ていねいにてあてしてくれたし、食事をしたり、ねたりもいっしょにしてるんだよ。ホントに、ホントに、やさしいくまなんだよ」
フィリップが動物たちをせっとくしていたころ、セーラはフィリップがいなくなっているのに気づいておちこんでいました。
「きっと、けがが治って、また旅にでてしまったんだわ。でも、ひとことくらい・・・ひとことくらい・・・」
セーラは、わんわんと声を上げて泣いていました。涙がかれるほど泣いたかとおもったころ、家のとびらが開きました。
「フィリップ?」セーラがふり返ると、たくさんの、たくさんの動物たちがいました。
「セーラ・・・わたしたち、あなたのことかんちがいしていたみたい。話はフィリップから聞いたわ。いまさらなんだけど・・・わたしたちと友達になってなってくれない?」
いちばん小さな、ハリネズミのメアリが言いました。
「わたしとも」「ぼくとも」「わたしとも」ヤギに野ウサギ、ヒツジにリス、キツネに白ウサギ、おんどりにめんどりにくじゃくたちも・・・。
セーラはまた目に涙をうかべて言いました。
「もちろんよ!!わたしは、いつも、あなたたちと友達になりたいと思っていたの!!」
わ~っと、みんながセーラに抱きつきます。
「ねぇ、みんな、フィリップを知らない?」
みんなは困ったように顔を見合わせます。
「次の旅に出るって、さっき出て行ったところだよ」
セーラは、みんなを振り切ってかけだすと、丘の方に向かいました。そこにフィリップをみつけると、大声で呼びました。
「フィーリーップ!!」
フィリップが立ち止まってふり返ります。セーラは息をきらして、フィリップに追い付きました。
そして、大声で言いました。
「ばか!!ばか、ばか、ばか!!」
セーラの目はもう、涙でいっぱいです。
「セーラ・・・さよならを言うのがつらくて」
フィリップは目をそらしていいます。
「みんなが、ボクのかわりになってくれればいいな、と思って。それが、ボクのキミのためにできることかな、って」
セーラは、フィリップにやさしくキスします。
「それはちがうわ。あなたがずっと、わたしのそばにいてくれること。それがあなたがわたしのためにできることよ。誰もあなたのかわりなんてできないんだもの」
「ここでいいのかな。キミに会うためにボクは旅をしていたのかな」
「わたしは、あなたが大好きよ、フィリップ」セーラが心をこめて言います。
「ボクもキミが好きだよ、セーラ。ボクはずっとキミのそばにいる」
フィリップがセーラにあついキスで返します。
ヒュー、ヒューヒューヒュー!!
ピー、ピー、ピー、ピー!!
気がつけば、みんなが2人を取り囲んでいました。
「幸せにな」「幸せにね」
それから、2人は手をつないで、2人の家に帰り、いつものように食事をして、あったかなベッドでくっついて眠りました。
おしまい