弥生花音 童話集 1
なつきちゃんとようせいリリと女神アプロディーテ
あるところに、夜空の星を見るのが大好きななつきちゃんという小学校3年生の女の子がいました。
「ずーっと星を見ていて、とってもきれいだけど、流れ星ってみたことないなぁ。流れ星にお願い事したいのに」
なつきちゃんはちょっとだけ残念でした。なぜかというと最近、パパの帰りが遅くて淋しいし、ママもそうみたいだから、流れ星にパパの帰りを早くしてもらえるよう、お願いしたかったのです。
そんな様子を見ていたようせいのリリは、なつきちゃんの願いを叶えてあげたいなぁ、と思いました。でも、リリには流れ星を作る力はありません。アプロディーテ様という女神様にお願いしなければならなかったのです。
リリは思いきって、なつきちゃんに声をかけてみました。小さな、小さな、声でした。
「だれ?何か言った?」
「わたしよ、なつきちゃん」
草むらのかげに、小さな、にじいろの羽根をもったようせいのリリがいました。
「ようせいの、リリって言うの」
「ようせいってホントにいるのね。絵本の中だけのおはなしだと思ってた。わたしになにか用?ようせいさん」
リリは、なつきちゃんのすぐそばに飛んできました。
「わたしは、流れ星を作ることのできる、女神アプロディーテ様を知っているの。アフロディーテ様は歌が大好きでいらっしゃるから、すてきな歌を歌ってさしあげれば、流れ星を作ってくださるかもしれないわ」
なつきちゃんの胸がはずみました。
「わたし、歌ってみる。歌、そんなに得意じゃないけど」
リリは持っていたステッキをふり、かいぞく船のような乗り物を出しました。
「これでアプロディーテ様のところに行けるわ。さぁ、行きましょう」
リリは嬉しそうに言います。なつきちゃんが船に乗り込むと、船はふわりと浮き上がり星空に向かって進んでいきます。
「すてき!」
なつきちゃんはしばらくの間、星空の旅を楽しみました。すると、目の前に星がたくさん集まって雲のようになっているところがあり、その上に女神アプロディーテが立っていました。
「アプロディーテ様」リリが声をかけます。「願いがある者がいます。どうか流れ星を作ってください」
「アプロディーテ様、お願いします。パパが家に早く帰ってくるように、流れ星にお願いしたいんです」
なつきちゃんも必死でお願いしました。
アプロディーテは笑顔で答えました。
「流れ星を作ることはできるけど、あなたもパパに自分の気持ちを伝えた方がいいと思いますよ。歌を歌ってくれたら、流れ星を作るわ。そうねぇ、冬の歌がいいな。あ、お願いは一度だけとなえればいいから」
「じゃあ、この歌を歌います」
なつきちゃんが選んだ歌はママもパパも大好きな歌でした。
♪白い雪景色
♪幸せをかぞえる
♪ベルの音がひびくよ
♪こよいこそは君をさそい・・・♪
なつきちゃんが歌を歌い終わるとアプロディーテは言いました。
「きれいな銀世界が目に浮かびました。ありがとう。明日の夜9時ちょうどに南の空に流れ星を流します。外を見ていてね」
「ありがとうございます」
はっ、と気がついたときはなつきちゃんはベッドにいました。
(夢だったのかしら?それにしてははっきりしてた。)
とりあえず、なつきちゃんは朝食のテーブルでママとパパに言いました。
「今晩9時ちょうどに流れ星が流れるの。わたしは、パパがもっと早く帰ってきて、みんなで一緒に夕食が食べられるように、ってお願いするわ」
ママとパパは顔を見合わせます。そして、ママも。
「わたしも、夕食の席にパパがいてくれたら、って思う」
「ふたりとも・・・」
パパはなにか考えているようでした。
そして、その日の夜。
やっぱり、パパは夕食には間に合わなかったのですが、いつもより大分早い8時半に帰ってきて夕食を食べました。そして、言いました。
「流れ星はどっちかな?」
「南ってどっち?」
なつきちゃんがこうふん気味に聞きます。
「ベランダのほうだね」
パパが答えます。
「行きましょう」
ママが言うと、みんなで階段をかけ上がります。
「今、何時?」
待ちきれなさそうになつきちゃんが聞きます。
「8時55分・・・もうすぐね」
ママが答えます。
「願い事は一回となえればいいからね」
なつきちゃんが言います。
「それならなんとかなりそうだな」
パパも安心したようです。
そして、9時。
キラキラキラ・・・流れ星が流れる間に。
(毎日、パパと夕食一緒に食べられますように)
(家族で食卓を囲めますように)
(仕事が早く片付いて帰れるようになりますように)
「ねぇ、願い事祈りおえた?わたしは大丈夫だったよ」
「ママもよ」
「パパもだよ。実はふたりに話があるんだ」
「なぁに?」
「パパの仕事をふりわけてくれている人にね、もう少し人数を増やしてくれるように頼んだんだ。すぐにではないかもしれないけど、考えてくれるって」
(よかったね)
「リリ・・・?リリ、どこにいるの?」
(ほかの子の願いを叶えるために、遠くにいるよ)
「リリ・・・アプロディーテ様。ありがとう」
パパの仕事は、それから少しずつ楽になり、帰ってくる時間も早くなりました。1ヶ月がたつころには、毎日、3人で夕食を食べられるようになりました。よかったね、なつきちゃん。
おしまい
「ずーっと星を見ていて、とってもきれいだけど、流れ星ってみたことないなぁ。流れ星にお願い事したいのに」
なつきちゃんはちょっとだけ残念でした。なぜかというと最近、パパの帰りが遅くて淋しいし、ママもそうみたいだから、流れ星にパパの帰りを早くしてもらえるよう、お願いしたかったのです。
そんな様子を見ていたようせいのリリは、なつきちゃんの願いを叶えてあげたいなぁ、と思いました。でも、リリには流れ星を作る力はありません。アプロディーテ様という女神様にお願いしなければならなかったのです。
リリは思いきって、なつきちゃんに声をかけてみました。小さな、小さな、声でした。
「だれ?何か言った?」
「わたしよ、なつきちゃん」
草むらのかげに、小さな、にじいろの羽根をもったようせいのリリがいました。
「ようせいの、リリって言うの」
「ようせいってホントにいるのね。絵本の中だけのおはなしだと思ってた。わたしになにか用?ようせいさん」
リリは、なつきちゃんのすぐそばに飛んできました。
「わたしは、流れ星を作ることのできる、女神アプロディーテ様を知っているの。アフロディーテ様は歌が大好きでいらっしゃるから、すてきな歌を歌ってさしあげれば、流れ星を作ってくださるかもしれないわ」
なつきちゃんの胸がはずみました。
「わたし、歌ってみる。歌、そんなに得意じゃないけど」
リリは持っていたステッキをふり、かいぞく船のような乗り物を出しました。
「これでアプロディーテ様のところに行けるわ。さぁ、行きましょう」
リリは嬉しそうに言います。なつきちゃんが船に乗り込むと、船はふわりと浮き上がり星空に向かって進んでいきます。
「すてき!」
なつきちゃんはしばらくの間、星空の旅を楽しみました。すると、目の前に星がたくさん集まって雲のようになっているところがあり、その上に女神アプロディーテが立っていました。
「アプロディーテ様」リリが声をかけます。「願いがある者がいます。どうか流れ星を作ってください」
「アプロディーテ様、お願いします。パパが家に早く帰ってくるように、流れ星にお願いしたいんです」
なつきちゃんも必死でお願いしました。
アプロディーテは笑顔で答えました。
「流れ星を作ることはできるけど、あなたもパパに自分の気持ちを伝えた方がいいと思いますよ。歌を歌ってくれたら、流れ星を作るわ。そうねぇ、冬の歌がいいな。あ、お願いは一度だけとなえればいいから」
「じゃあ、この歌を歌います」
なつきちゃんが選んだ歌はママもパパも大好きな歌でした。
♪白い雪景色
♪幸せをかぞえる
♪ベルの音がひびくよ
♪こよいこそは君をさそい・・・♪
なつきちゃんが歌を歌い終わるとアプロディーテは言いました。
「きれいな銀世界が目に浮かびました。ありがとう。明日の夜9時ちょうどに南の空に流れ星を流します。外を見ていてね」
「ありがとうございます」
はっ、と気がついたときはなつきちゃんはベッドにいました。
(夢だったのかしら?それにしてははっきりしてた。)
とりあえず、なつきちゃんは朝食のテーブルでママとパパに言いました。
「今晩9時ちょうどに流れ星が流れるの。わたしは、パパがもっと早く帰ってきて、みんなで一緒に夕食が食べられるように、ってお願いするわ」
ママとパパは顔を見合わせます。そして、ママも。
「わたしも、夕食の席にパパがいてくれたら、って思う」
「ふたりとも・・・」
パパはなにか考えているようでした。
そして、その日の夜。
やっぱり、パパは夕食には間に合わなかったのですが、いつもより大分早い8時半に帰ってきて夕食を食べました。そして、言いました。
「流れ星はどっちかな?」
「南ってどっち?」
なつきちゃんがこうふん気味に聞きます。
「ベランダのほうだね」
パパが答えます。
「行きましょう」
ママが言うと、みんなで階段をかけ上がります。
「今、何時?」
待ちきれなさそうになつきちゃんが聞きます。
「8時55分・・・もうすぐね」
ママが答えます。
「願い事は一回となえればいいからね」
なつきちゃんが言います。
「それならなんとかなりそうだな」
パパも安心したようです。
そして、9時。
キラキラキラ・・・流れ星が流れる間に。
(毎日、パパと夕食一緒に食べられますように)
(家族で食卓を囲めますように)
(仕事が早く片付いて帰れるようになりますように)
「ねぇ、願い事祈りおえた?わたしは大丈夫だったよ」
「ママもよ」
「パパもだよ。実はふたりに話があるんだ」
「なぁに?」
「パパの仕事をふりわけてくれている人にね、もう少し人数を増やしてくれるように頼んだんだ。すぐにではないかもしれないけど、考えてくれるって」
(よかったね)
「リリ・・・?リリ、どこにいるの?」
(ほかの子の願いを叶えるために、遠くにいるよ)
「リリ・・・アプロディーテ様。ありがとう」
パパの仕事は、それから少しずつ楽になり、帰ってくる時間も早くなりました。1ヶ月がたつころには、毎日、3人で夕食を食べられるようになりました。よかったね、なつきちゃん。
おしまい