弥生花音 童話集 1
【くぅちゃんシリーズ】きょうりゅうのきょんちゃんゆくえふめいじけん
むかし、むかしのこと。みずきちゃんいう5さいの女の子とぬいぐるみのくまのくぅちゃんがなかよく幸せにくらしていました。
くぅちゃんとみずきちゃんは、ふとしたきっかけでねる前の1時間だけ、おしゃべりできるようになっていました。
みずきちゃんは、くぅちゃんに話しかけます。「明日、晴れたらピクニックに行こう。おべんとうもって。ね?」
くぅちゃんは答えます。「いいねぇ。太陽ぽかぽかはきもちいいもんね。でも、ぼく、昼間はたべものものみものもダメなんだ」
「ぬいぐるみさんだもんね。わかってるわ。ふりだけね」
「においだけでも、おいしいもの。楽しみだなぁ」
くぅちゃんもみずきちゃんもわくわくしてきました。
「じゃあ、みずきちゃんは、早めにねてね。ぼくは、12時から、お茶会に行ってくるから」
「行ってらっしゃい、くぅちゃん。おやすみなさい」
「おやすみ」
次の朝は、雲ひとつない青空でした。みずきちゃんは、ママに手伝ってもらっておべんとうを作りました。
「みずき、ねぇ、ほんとうにひとりで電車、だいじょうぶ?」
「心配しないで、ママ。くぅちゃんがいるから。それに、あやかちゃんもくることになってるの。きょうりゅうのきょんちゃんをつれて」
「そう。じゃあ、気を付けて行ってらっしゃい」
みずきちゃんは、くぅちゃんをだいてでかけます。電車にのって、2つ先の駅まで行きました。そこから、歩いて少し。あやかちゃんとの待ち合わせの丘までやってきました。
「あやかちゃん、まだみたい。ちょっと、のんびりしてようか」みずきちゃんは、くぅちゃんに話しかけるとシートを広げてねっころがります。
どのくらいたったでしょうか。みずきちゃんはいつのまにかねてしまっていたようです。
「みずきちゃん、みずきちゃん」目を開けると、目に涙をためたあやかちゃんがいました。
「どうしたの?」
「きょんちゃんがいなくなっちゃったの。ねる前は確かにだいていたのに、朝になったらいなかったの」
(きっとお茶会に行ったんだわ。でも、どうして帰ってこなかったのかしら)
(みずきちゃん、お茶会のことはひみつだよ。ぼくがなんとかするからしんぱいしないで)くぅちゃんがみずきちゃんの心にかたりかけます。
(ほんとうに?どうするの?)
(夜、ぼくがさがしにいってくる。みずきちゃんたちは、家の中をさがして)
「あやかちゃん、きょんちゃん、どこにいくはずもないから、家の中をさがそう。みずきもいっしょにさがしてあげる」
電車に乗って、あやかちゃんの家に行きました。あやかちゃんの家は、みずきちゃんの1ことなりのえきの近くです。
「あら、みずきちゃん、いらっしゃい。ピクニックは終わったの?」
「家で遊ぼうってことになって・・・かくれんぼするので、バタバタするかもしれません」
みずきちゃんとあやかちゃんは、あちこちさがしまわりました。ベッドの下、机の下、押し入れの中、トイレ、おふろ・・・でも、きょんちゃんはどこにもいません。
「あたし、きょんちゃんになにかしたかなぁ。おこって、出て行っちゃったのかなぁ」
泣いているあやかちゃんをなぐさめる言葉をみずきちゃんはおもいつけませんでした。だって、もし、くぅちゃんがいなくなったら・・・。
かえりたくなかったけれど、5時に家につくために、しかたなく、みずきちゃんとくぅちゃんは家にかえりました。
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その日の夜、みずきちゃんはくぅちゃんにたずねました。
「きのうの夜、きょんちゃんはお茶会に来てたの?」
「来ていたよ。だから、かえり道でなにかあったのかもしれない。さがしてくるよ」
「みずきもいっしょに・・・」
「みずきちゃん、危ないことはしないってやくそくしたでしょ?ぼくにまかせて。おやすみ」
みずきちゃんは、少しさびしかったけれど、くぅちゃんとのやくそくです。くぅちゃんにまかせることにしました。
「じゃあね」
くぅちゃんは、ぽぉん、とまどからとびおりて、たっ、たっ、たっ、と走って行きました。
そのすがたを見送って「くぅちゃん、がんばれ!」とつぶやくみずきちゃんなのでした。
くぅちゃんは、お茶会のある森に入って行きました。そして、まず、お茶会の小屋に行ってみます。
「ねぇ、みんな、きょんちゃんは?」くぅちゃんがみんなにたずねます。
「まだ来ていないね。きょんちゃんは、いつも、早く来る方だからおかしいな、と思っていたところだよ」
うさぎのラビちゃんがこたえます。
「ぼく、ちょっと、さがしてくるね。助けがひつようなら、もどってくる」
「気を付けてね」みんなが口々に言います。
(さがすっていってもなぁ・・・まず、ものしりのこうもりさんたちに聞いてみようか)
くぅちゃんは、森のおくのどうくつにむかいます。どうくつにはいると、びっくりしたこうもりさんが、ばたばたととびまわります。
「なにか用かね、ぬいぐるみのくまさん」いちばん年をとったこうもりさんがたずねます。
「ぬいぐるみのきょうりゅうさんをみかけませんでしたか?」
「みかけないねぇ。なんだい、いなくなっちゃったのかい。それはしんぱいだね。そとのせかいのことなら、ふくろうさんたちのほうがくわしいから、ききにいってごらん」
「ありがとう、こうもりさん」
くぅちゃんは外に出て、ふくろうさんをさがします。「ふくろうさん、ふくろうさぁぁん」
「なんだね、うるさい」ふくろうのおばさんが答えます。
「あの、きょうりゅうのぬいぐるみさんをみかけませんでしたか?」
「え~~っと、そうだねぇ、ピンクとむらさき色の、トカゲの大きいのみたいのだったら、見かけたよ」
「その子です。どこでですか?」
「その先の、がけの下で横たわっていたよ。助けようと思ったけど、つめできずつけちゃいけないからねぇ」
「ありがとうございました」くぅちゃんは、大きくおじぎをしました。
「気をつけていくんだよ」
「はい。ありがとうございます」もういちどおじぎをすると、くぅちゃんはがけにむかってかけだしました。
がけの前にたどりつき、大声でよびます。がけのなかは、まっくらで何も見えません。「きょんちゃ~ん!!」
「くぅ・・・ちゃ・・・ん」
よわよわしい声がきこえます。
「どこだ~い?」くぅちゃんは、ひっしにさけびます。
「がけの、いちばん、下。足を・・・すべらせちゃったんだ」
5メートルくらいはあるがけです。ひとりで助けるのは、むずかしそうです。
「ロープをもって、みんなを連れてくるからちょっとまってて。もうすこしのしんぼうだよ」
「ありが・・・とう。まってる」
くぅちゃんは、大急ぎで森の小屋まで走って行き、みんなになにがおこったか、話しました。
「ロープと・・・あかりがひつようじゃな」いちばん年をとったくまのサムじいさんがいいました。大切に、大切にされているので古くはなっていますが、元気です。
「5人くらいいればいいじゃろう。行こう」
くぅちゃんと、サムじいさんと、犬のコロちゃんとなつちゃん、うさぎのラビちゃんが、がけに向かってでかけます。
がけのそばについて、サムじいさんが、あかりをがけの下にむけます。「おぉ、そこだね。今から、ロープをおとすからね」
ロープがきょんちゃんのところまでとどき、きょんちゃんがロープをつかみました。
「おねがいしまぁす!」きょんちゃんがさけびます。
よいしょ、よいしょ。5にんはいっしょうけんめいにロープを引き、ついにきょんちゃんを助け出すことができました。
「ありがとう。助かったよ。でも、ぼく・・・どろどろになっちゃったよ」
きょんちゃんが、今にも泣き出しそうです。
「そういうときは、ぬいぐるみのようせいさんにたのむんじゃよ」サムおじいさんは言いました。
「ぬいぐるみのようせいさん?」きょんちゃんも、くぅちゃんも、みんなも、はじめてきく名前です。
「ららら、りるりるりるら~、ぬいぐるみのようせいさん、来ておくれ~♪」サムじいさんが歌います。
すると、にじいろのはねを持った、小さなようせいさんがあらわれました。
「あらあら・・・おこまりのようね。わたしのまほうで、もとどおり、きれいにしてあげる。きょんちゃん、いらっしゃい」
とまどいながら、きょんちゃんがようせいさんのまえに出ます。
「きれいにしてあげるね。くりーら、くりーら、くりくりくりーん♪」
ようせいさんが、ステッキをふると、あらふしぎ、きょんちゃんは、もとどおり、きれいなピンクとむらさきいろに。
「ありがとう、ようせいさん」きょんちゃんはびっくりしながらも、おれいを言いました。
「なにかあったら、また、呼んでね」
ようせいさんは、ウィンクをすると、とおい空へ羽ばたいていきました。
いつのまにか、たいようが上りかけていました。
「もうすぐ夜が明けるよ。きょんちゃん、かえろう」くぅちゃんが言いました。
「みんな、ありがとう。また、今日の夜、お茶会でね」
「今度はおちないようにね~」みんなが笑って言いました。
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きょんちゃんが、あやかちゃんの部屋のまどから、そっとはいったとき。
「う・・・ん?きょんちゃん?」
あやかちゃんが、いっしゅん、目をさましました。
「おやすみ、あやかちゃん、また、あしたね」
きょんちゃんは、するり、とあやかちゃんのうでにすべりこみ、あやかちゃんもねむりにおちました。
「きょん・・・ちゃん」ねごとであやかちゃんが言います。
「もう、2どとはなれないからね」きょんちゃんは、ささやきました。
じりりりり・・・けたたましく、あやかちゃんのめざましが鳴ります。
「ふわわ~・・・・っと、えっ?きょんちゃん?」
あやかちゃんのむねに、うれしいおどろきがひろがりました。
「きょんちゃん、どこに行ってたの?帰ってきてくれて、ありがとう!」
ドダダダダ・・・大急ぎでかいだんをかけおります。
「こらっ、あやか!!走ってかいだんをおりないの!」あやかちゃんのママがあきれて言います。
「みずきちゃんに、でんわしたくて・・・あっ、みずきちゃん?きょんちゃんが帰ってきたの。気がついたら、いっしょにねてた」
「へぇ、ふしぎだね。でも、よかったね」
「こんなこと言うのへんなんだけど・・・夜中に、きょんちゃんがおしゃべりした気が・・・やっぱりへんよね。わすれて」
「へんじゃないよ、ちっとも」
「え?」
「なんでもない。また、あそぼうね」
(あやかちゃん、それは気のせいでもなんでもないよ。いつか、ちゃんときょんちゃんとおしゃべりできる日がくるといいね。それは、きっとすぐだよ)
みずきちゃんは、やさしくそう思ったのでした。
おしまい。
くぅちゃんとみずきちゃんは、ふとしたきっかけでねる前の1時間だけ、おしゃべりできるようになっていました。
みずきちゃんは、くぅちゃんに話しかけます。「明日、晴れたらピクニックに行こう。おべんとうもって。ね?」
くぅちゃんは答えます。「いいねぇ。太陽ぽかぽかはきもちいいもんね。でも、ぼく、昼間はたべものものみものもダメなんだ」
「ぬいぐるみさんだもんね。わかってるわ。ふりだけね」
「においだけでも、おいしいもの。楽しみだなぁ」
くぅちゃんもみずきちゃんもわくわくしてきました。
「じゃあ、みずきちゃんは、早めにねてね。ぼくは、12時から、お茶会に行ってくるから」
「行ってらっしゃい、くぅちゃん。おやすみなさい」
「おやすみ」
次の朝は、雲ひとつない青空でした。みずきちゃんは、ママに手伝ってもらっておべんとうを作りました。
「みずき、ねぇ、ほんとうにひとりで電車、だいじょうぶ?」
「心配しないで、ママ。くぅちゃんがいるから。それに、あやかちゃんもくることになってるの。きょうりゅうのきょんちゃんをつれて」
「そう。じゃあ、気を付けて行ってらっしゃい」
みずきちゃんは、くぅちゃんをだいてでかけます。電車にのって、2つ先の駅まで行きました。そこから、歩いて少し。あやかちゃんとの待ち合わせの丘までやってきました。
「あやかちゃん、まだみたい。ちょっと、のんびりしてようか」みずきちゃんは、くぅちゃんに話しかけるとシートを広げてねっころがります。
どのくらいたったでしょうか。みずきちゃんはいつのまにかねてしまっていたようです。
「みずきちゃん、みずきちゃん」目を開けると、目に涙をためたあやかちゃんがいました。
「どうしたの?」
「きょんちゃんがいなくなっちゃったの。ねる前は確かにだいていたのに、朝になったらいなかったの」
(きっとお茶会に行ったんだわ。でも、どうして帰ってこなかったのかしら)
(みずきちゃん、お茶会のことはひみつだよ。ぼくがなんとかするからしんぱいしないで)くぅちゃんがみずきちゃんの心にかたりかけます。
(ほんとうに?どうするの?)
(夜、ぼくがさがしにいってくる。みずきちゃんたちは、家の中をさがして)
「あやかちゃん、きょんちゃん、どこにいくはずもないから、家の中をさがそう。みずきもいっしょにさがしてあげる」
電車に乗って、あやかちゃんの家に行きました。あやかちゃんの家は、みずきちゃんの1ことなりのえきの近くです。
「あら、みずきちゃん、いらっしゃい。ピクニックは終わったの?」
「家で遊ぼうってことになって・・・かくれんぼするので、バタバタするかもしれません」
みずきちゃんとあやかちゃんは、あちこちさがしまわりました。ベッドの下、机の下、押し入れの中、トイレ、おふろ・・・でも、きょんちゃんはどこにもいません。
「あたし、きょんちゃんになにかしたかなぁ。おこって、出て行っちゃったのかなぁ」
泣いているあやかちゃんをなぐさめる言葉をみずきちゃんはおもいつけませんでした。だって、もし、くぅちゃんがいなくなったら・・・。
かえりたくなかったけれど、5時に家につくために、しかたなく、みずきちゃんとくぅちゃんは家にかえりました。
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その日の夜、みずきちゃんはくぅちゃんにたずねました。
「きのうの夜、きょんちゃんはお茶会に来てたの?」
「来ていたよ。だから、かえり道でなにかあったのかもしれない。さがしてくるよ」
「みずきもいっしょに・・・」
「みずきちゃん、危ないことはしないってやくそくしたでしょ?ぼくにまかせて。おやすみ」
みずきちゃんは、少しさびしかったけれど、くぅちゃんとのやくそくです。くぅちゃんにまかせることにしました。
「じゃあね」
くぅちゃんは、ぽぉん、とまどからとびおりて、たっ、たっ、たっ、と走って行きました。
そのすがたを見送って「くぅちゃん、がんばれ!」とつぶやくみずきちゃんなのでした。
くぅちゃんは、お茶会のある森に入って行きました。そして、まず、お茶会の小屋に行ってみます。
「ねぇ、みんな、きょんちゃんは?」くぅちゃんがみんなにたずねます。
「まだ来ていないね。きょんちゃんは、いつも、早く来る方だからおかしいな、と思っていたところだよ」
うさぎのラビちゃんがこたえます。
「ぼく、ちょっと、さがしてくるね。助けがひつようなら、もどってくる」
「気を付けてね」みんなが口々に言います。
(さがすっていってもなぁ・・・まず、ものしりのこうもりさんたちに聞いてみようか)
くぅちゃんは、森のおくのどうくつにむかいます。どうくつにはいると、びっくりしたこうもりさんが、ばたばたととびまわります。
「なにか用かね、ぬいぐるみのくまさん」いちばん年をとったこうもりさんがたずねます。
「ぬいぐるみのきょうりゅうさんをみかけませんでしたか?」
「みかけないねぇ。なんだい、いなくなっちゃったのかい。それはしんぱいだね。そとのせかいのことなら、ふくろうさんたちのほうがくわしいから、ききにいってごらん」
「ありがとう、こうもりさん」
くぅちゃんは外に出て、ふくろうさんをさがします。「ふくろうさん、ふくろうさぁぁん」
「なんだね、うるさい」ふくろうのおばさんが答えます。
「あの、きょうりゅうのぬいぐるみさんをみかけませんでしたか?」
「え~~っと、そうだねぇ、ピンクとむらさき色の、トカゲの大きいのみたいのだったら、見かけたよ」
「その子です。どこでですか?」
「その先の、がけの下で横たわっていたよ。助けようと思ったけど、つめできずつけちゃいけないからねぇ」
「ありがとうございました」くぅちゃんは、大きくおじぎをしました。
「気をつけていくんだよ」
「はい。ありがとうございます」もういちどおじぎをすると、くぅちゃんはがけにむかってかけだしました。
がけの前にたどりつき、大声でよびます。がけのなかは、まっくらで何も見えません。「きょんちゃ~ん!!」
「くぅ・・・ちゃ・・・ん」
よわよわしい声がきこえます。
「どこだ~い?」くぅちゃんは、ひっしにさけびます。
「がけの、いちばん、下。足を・・・すべらせちゃったんだ」
5メートルくらいはあるがけです。ひとりで助けるのは、むずかしそうです。
「ロープをもって、みんなを連れてくるからちょっとまってて。もうすこしのしんぼうだよ」
「ありが・・・とう。まってる」
くぅちゃんは、大急ぎで森の小屋まで走って行き、みんなになにがおこったか、話しました。
「ロープと・・・あかりがひつようじゃな」いちばん年をとったくまのサムじいさんがいいました。大切に、大切にされているので古くはなっていますが、元気です。
「5人くらいいればいいじゃろう。行こう」
くぅちゃんと、サムじいさんと、犬のコロちゃんとなつちゃん、うさぎのラビちゃんが、がけに向かってでかけます。
がけのそばについて、サムじいさんが、あかりをがけの下にむけます。「おぉ、そこだね。今から、ロープをおとすからね」
ロープがきょんちゃんのところまでとどき、きょんちゃんがロープをつかみました。
「おねがいしまぁす!」きょんちゃんがさけびます。
よいしょ、よいしょ。5にんはいっしょうけんめいにロープを引き、ついにきょんちゃんを助け出すことができました。
「ありがとう。助かったよ。でも、ぼく・・・どろどろになっちゃったよ」
きょんちゃんが、今にも泣き出しそうです。
「そういうときは、ぬいぐるみのようせいさんにたのむんじゃよ」サムおじいさんは言いました。
「ぬいぐるみのようせいさん?」きょんちゃんも、くぅちゃんも、みんなも、はじめてきく名前です。
「ららら、りるりるりるら~、ぬいぐるみのようせいさん、来ておくれ~♪」サムじいさんが歌います。
すると、にじいろのはねを持った、小さなようせいさんがあらわれました。
「あらあら・・・おこまりのようね。わたしのまほうで、もとどおり、きれいにしてあげる。きょんちゃん、いらっしゃい」
とまどいながら、きょんちゃんがようせいさんのまえに出ます。
「きれいにしてあげるね。くりーら、くりーら、くりくりくりーん♪」
ようせいさんが、ステッキをふると、あらふしぎ、きょんちゃんは、もとどおり、きれいなピンクとむらさきいろに。
「ありがとう、ようせいさん」きょんちゃんはびっくりしながらも、おれいを言いました。
「なにかあったら、また、呼んでね」
ようせいさんは、ウィンクをすると、とおい空へ羽ばたいていきました。
いつのまにか、たいようが上りかけていました。
「もうすぐ夜が明けるよ。きょんちゃん、かえろう」くぅちゃんが言いました。
「みんな、ありがとう。また、今日の夜、お茶会でね」
「今度はおちないようにね~」みんなが笑って言いました。
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きょんちゃんが、あやかちゃんの部屋のまどから、そっとはいったとき。
「う・・・ん?きょんちゃん?」
あやかちゃんが、いっしゅん、目をさましました。
「おやすみ、あやかちゃん、また、あしたね」
きょんちゃんは、するり、とあやかちゃんのうでにすべりこみ、あやかちゃんもねむりにおちました。
「きょん・・・ちゃん」ねごとであやかちゃんが言います。
「もう、2どとはなれないからね」きょんちゃんは、ささやきました。
じりりりり・・・けたたましく、あやかちゃんのめざましが鳴ります。
「ふわわ~・・・・っと、えっ?きょんちゃん?」
あやかちゃんのむねに、うれしいおどろきがひろがりました。
「きょんちゃん、どこに行ってたの?帰ってきてくれて、ありがとう!」
ドダダダダ・・・大急ぎでかいだんをかけおります。
「こらっ、あやか!!走ってかいだんをおりないの!」あやかちゃんのママがあきれて言います。
「みずきちゃんに、でんわしたくて・・・あっ、みずきちゃん?きょんちゃんが帰ってきたの。気がついたら、いっしょにねてた」
「へぇ、ふしぎだね。でも、よかったね」
「こんなこと言うのへんなんだけど・・・夜中に、きょんちゃんがおしゃべりした気が・・・やっぱりへんよね。わすれて」
「へんじゃないよ、ちっとも」
「え?」
「なんでもない。また、あそぼうね」
(あやかちゃん、それは気のせいでもなんでもないよ。いつか、ちゃんときょんちゃんとおしゃべりできる日がくるといいね。それは、きっとすぐだよ)
みずきちゃんは、やさしくそう思ったのでした。
おしまい。