弥生花音 童話集 1
いるかのライアと3つのおねがい
むかしむかし、日本のあるところに小さなすいぞくかんがありました。

そこでのいちばんの人気はイルカたちのショーでした。

イルカたちの中で、いちばん小さい子のなまえがライアでした。ライアはすいぞくかんで生まれた子で海を知りませんでした。

ライアはまいにち、まいにち、いっしょうけんめい、技のれんしゅうをしていました。

ちいさいながらもがんばっていて、お客さんたちの人気者でした。

そして、ライアはトレーナーのユキお姉さんとけんお兄さんが大好きでした。

(ふたり、すごくなかがよさそうだな)

ライアはいつも思っていました。

そんなある日の夜、ライアはふしぎなゆめを見ました。

ライアの前に、ぎん色のはねをもった、小さなかわいらしい女の子があらわれたのです。

女の子は言いました。

「あなたは、いっしょうけんめいがんばっているから、海の神さまがあなたの3つのおねがいをきいてくれると言っています」

「ほんとう?」

「目がさめたら、声にだしてねがってごらんなさい。ねがいはかなえられるでしょう。このことは、だれにも言ってはいけませんよ」

次の日、目がさめるとライアは思いました。

(3つのおねがいかぁ。ひとつは決まってる。海に行きたい。広くて、大きくて、すてきだって、ジョージおじさんが言っていたもの)

「海の神さま、おねがいをきいてください。ボクを海につれていってください」

すると、ごぉ~っと大きな波が起こったかと思うと、気がつけば、ライアは海にいました。

(ここが海かぁ。広いなぁ、大きいなぁ。)

ライアは楽しそうに、あちこちおよぎ回ります。(そうだ、もうすこしでできそうな、3かいてんはんジャンプをれんしゅうしよう)

ライアはいっしょうけんめいとびますが、ぜんぜんできません。いつもおうえんしてくれる、ユキお姉さんやけんお兄さんや、お客さんたちのおうえんがないからです。

(気がつかなかった・・・ボクはとてもしあわせだったんだ。なんでそれに気がつかなかったんだろう。なんですいぞくかんを出ようなんて思ったんだろう。)「神さま、どうかボクをすいぞくかんにもどしてください」ライアの2つめのねがいです。

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そのころ、すいぞくかんは、おおさわぎでした。

ライアがとつぜん、すがたを消してしまったからです。

「おかしいわ。いなくなるはずなんてない。もしかして、さらわれたのかしら」ユキお姉さんは心配そうです

「そんなはずないさ。こどもと言っても、かなりの重さがあるんだから。すいそうのどこかにいるにちがいない。ぼくたちがみおとしているだけだよ」けんお兄さんがちからづけるように言います。

(でも、いったいどこにいるっていうんだ・・・?)けんお兄さんが思います。

「ジョージ、マナ、ジム、サラ、ライアはどこに行ってしまったか知らない?」ユキお姉さんはねがうようにみんなにききます。でも・・・。

「ピー、ピー、ピー、知らないよぉ」と答えるだけです。

「さいしょのショーが10時からだから、それまでに見つけないと!」けんお兄さんはプールにとびこみます。

すると、ふたたび、ごぉ~っと大きな波が起こったかと思うと、ライアがそこにいました。

「ライア、ライア・・・どこにいってたの?どこからあらわれたの?」ユキお姉さんは目に涙をためています。

「ピー、ピー、ピー、ちょっとおさんぽに行ってたよ。さびしかったよ、ユキお姉さん、けんお兄さん」

ユキお姉さんも、けんお兄さんも、わけが分かりませんが、とりあえずほっとしていました。

「おかえり、ライア」けんお兄さんがやさしくライアを抱きしめました。

「よかった、ホントによかった…」ユキお姉さんもプールに入り、ライアを抱きしめます。「もうどこにも行かないで・・・」

「ごめんね、ユキお姉さん、けんお兄さん。大好きだよ」

そして、10時から、ショーが始まりました。はなやかなぶたい。イルカたちがあざやかにジャンプをきめていきます。おきゃくさんのはくしゅ。

(ボクはほんとうにしあわせだなぁ。)ライアは思いました。

「ここで、子イルカのライアがれんしゅう中の技をやってみます。失敗するかもしれませんが、みなさま、あたたかい目で見守ってください」

けんお兄さんがマイクで言います。

(よぉし、がんばるぞぉ!)ライアがかくごをきめます。

いきおいをつけて、ジャンプ!くるり、くるり、くるり、くる!!みごとな3かいてんはんジャンプです。

「やりました!!はじめてのせいこうです。みなさん、大きなはくしゅを!!」

わぁ~、すご~い!!パチパチパチパチ!!パチパチパチ!!われんばかりのはくしゅ。

(ボク、ここでショーをやっててよかったなぁ。すいぞくかんで生まれてよかったなぁ)

ライアは心からそう思いました。

その夜、ライアはまたゆめでぎん色のはねの女の子に出会いました。

「2つのねがいがかなえられました。のこりされたねがいはひとつです。こうかいのないようにえらびなさい」

「はい・・・もうきめています」

「では、目がさめたら、ねがってごらんなさい。きっと、かなえられるでしょう」

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次の日、目がさめて、ユキお姉さんとけんお兄さんにからだにちょうしのわるいところがないか、見てもらってから、ライアはねがいました。

「このふたりが、ずっとなかよくいられますように。これがぼくの3つめのねがいです、海の神さま」

それからも、ライアは毎日、れんしゅうをしていました。ユキお姉さんとけんお兄さんもなかがよさそうです。

(ボクのねがいがかなっているのか・・・な?)ライアはしんじていいのか、よく分かりませんでした。

そんな1か月後のある日、ライアはユキお姉さんのひだりゆびにきらりと光るものをみつけました。

(なんだろう・・・?きれいだなぁ)

「ジョージおじさん、ユキお姉さんのゆびに光るふしぎなものはなに?」ライアは一番年上のジョージにたずねます。

「あぁ、あれはなぁ、ダイヤモンドという石だよ。こんやくゆびわと言ってな、男の人が女の人にけっこんのやくそくとしてわたすものだよ」

「けっこんって・・・?」

「2人がず~っといっしょにくらすことだよ」

「じゃあ、あれは・・・」

「けんお兄さんからのものだな」

「わぁ~い!!」ライアは、うれしくて、うれしくて、プール中をおよぎまわって、ジャンプをして、おおよろこびでした。

その日の夜、ユキお姉さんとけんお兄さんは、レストランにいました。

ユキお姉さんが言います。「けっこんしきのことなんだけど、あのね・・・わたし、イルカプールでやりたい」

「えっ?」けんお兄さんはおどろいています。

「だって、2人がであったばしょだし、イルカたちにもおいわいしてほしい」

「そうだね・・・せきはあるから、できないこともないとおもうけど」

「わたし、なんとなくあのこたち、わたしたちがけっこんするのわかってるきがするの」

「ユキらしいというか、なんというか・・・。よし、そうだんしてみよう」

そして、いろいろばたばたはあったようですが、しきじょうはイルカプールに決まり、けっこんしきの日がやってきました。

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さて、けっこんしきの日。この日はけっこんしきのためにすいぞくかんはお休みです。

ウエディングドレスとタキシードにきがえるまえ、ユキお姉さんとけんお兄さんは、けっこんしきのためにキラキラにかざられたイルカプールにいました。

「今日は、あなたたちもいっしょにたのしんでね」ユキお姉さんが言います。

「いいジャンプを見せてくれよ」けんお兄さんがガッツポーズをします。

「ゆき、そろそろきがえる時間だね」

「そうね。じゃあ、みんな、またあとで」

「ピー、ピー、ピー、ピー、待ってるよ」イルカのみんながいっせいに言います。

けっこんしきが始まりました。タキシードすがたのけんお兄さんがまっているところに、ユキお姉さんのお父さんとうでをくんだ、ウエディングドレスのユキお姉さんが一歩ずつ向かいます。

(ユキお姉さん、とてもきれいだよ)ライアは思いました。

ユキお姉さんのお父さんがけんお兄さんにお姉さんをたくしたところで、まず、ぽん、ぽん、ぽ~ん、とイルカたちがジャンプします。

けっこんのちかいのことば、ゆびわのこうかん、そして、ちかいのキス。

イルカたちがいっせいにロープをひいてかねをならします。からん、からん、から~ん、から~ん。

さいごに、ライアの心を込めた3かいてんはんジャンプ。

そうして、ぶじにけっこんしきはおわりました。

ユキお姉さんとけんお兄さんは、ウエディングドレスとタキシードのまま、みずぎわまできてイルカたちをなでます。

「ありがとう。本当にありがとうねぇぇぇ。。。」ユキお姉さんの顔は涙でぐしゃぐしゃです。

「しあわせに・・・しあわせになってね」

その思いをこめて、イルカたち全員が大きなジャンプをしました。

おまけにさいごに、ライアの3かいてんはんジャンプです。

「おまえだけ、目立ちやがって~」ほかのイルカたちが笑って言いました。

「ユキお姉さん、けんお兄さん、すてきなふうふになってね」ライアは言いました。

「伝わったよ、みんな。伝わったよ、ライア。わたしたち、ぜったいしあわせになるね」

けんお兄さんは、ユキお姉さんに、もう一度、やさしくキスをしました。

「ピー、ピー、ピー、ピー、おめでとう」

いつまでも、いつまでも、イルカたちのしゅくふくがつづくのでした。


おしまい。
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