ストロベリー・バレンタイン
「柏葉君!…どうしてここに?」


 思わず私は彼に、聞いてしまった。


 花梨と杏は目をまん丸くして、幻の秘宝にでもお目にかかったかの様に、彼の方を見つめている。

 柏葉君は表情を変えずに、私を見ながらこう言った。
 
「木下さんに返事をしに。今朝、俺に告白してくれた件で」

「…………!」

「よく、ここで食べてたみたいだから。お昼」

 …柏葉君、私がクッキングクラブがある曜日に、家庭科室でお昼を食べてる事知ってたんだ…!

 ようやく頭が動き出した様子の花梨と杏は、突然私に向かって叫んだ。


「い、いち、苺!!わ、私達はもう、移動教室だから、行かなきゃ!!」


「そ、そう!次、私達、…体育だし!!じ、じゃあね柏葉君、苺!!」


「え?ち、ちょっと待って!!まだ材料…?!」


 出て行こうとした二人を、私は慌てて止めようとした。

 放課後のクッキングクラブで作る、全員の家族に渡す分のチョコレートの材料を、昼休みのうちに量っておこうと相談していたのに。



「あ!…あ~ゴメン、苺!今日の放課後さ、私達、ちょっと早めに彼と待ち合わせする事になったの、うっかり忘れてた!」

 と、花梨。

「そうそう、いつもより彼、早く用事が終わるんだって。だからゴメンね!放課後のクラブはパスさせて」

 と、杏。



「え、ちょ、ちょっと…?」



 二人はそのまま、そそくさと家庭科室を出て行ってしまった。



 思いっきり、気を遣われてしまった…。



 私は、誰もいない家庭科室の中で柏葉君と、二人きりになってしまった。


「あ、えと、ご、ごめんね柏葉君、…何だかバタバタしちゃって…」


「…気を遣ってくれたみたいだね。チョコを作る予定だったの?」


 柏葉君はチョコレートの材料を指差した。


「あ、うん」


 私は材料を片付けながら続けた。


「…放課後にみんなで家族にあげるチョコを作る事になってたの。材料の重さだけ昼休みに量っておこうかと思ってたけど」


 柏葉君は、私をじっと見つめている。


 …3年間一緒のクラスだったのに、今まで一対一でまともに会話をした事すら無かったので、話すだけでひどく緊張してしまう。

「…中止になっちゃったみたい。材料はこのまま持って帰って、家で自分の分だけ作るよ」


 …やっぱり謝りたいな、今朝の事…。

 …もしかしたら、嫌な思いをさせてしまったかも知れないし。


 私は彼に、深く頭を下げた。


「今朝は私…教室の中で告白なんかして…ゴメンね」


 彼はそれを聞くと、目を見開いて私を見た。


「は?…………どうして謝るの?」


 片付けが終わって私が椅子に腰掛けると、彼は私のすぐ横の席に座った。


「…………嫌だったかなあ…って。恥ずかしくて」



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