ストロベリー・バレンタイン
 放課後。


 私は彼と一緒に学校帰り、制服のまま電車を乗り継ぎ、ある場所へとたどり着いた。


『パステルスイーツ・ミュージアム』


 入場券を買って彼と一緒に中に入ると、そこには100以上の可愛いスイーツショップが並ぶ、パステルカラーで彩られた巨大ミュージアムが広がっていた。

「…すごい!!」

 私は感動して、思わず叫んでしまった。

 スイーツショップだけでは無く、屋内だというのに遊園地の様な乗り物や劇場の様なスペースまである。時間を決めてキャラクターショーでもするのだろうか?

「もしかして、一度もここに来た事無いの?」

 彼に聞かれ、私は頷いた。

 少しお腹が空いたねと、二人で相談して『パステル・パンケーキ』という店に入った。無事注文を済ませた私は、キョロキョロとあたりを観察してしまう。

「うん。こういう場所がある事は、知ってたんだけど」

 私はカラフルで楽しいメニューを見ながら嬉しさのあまり、満面の笑顔になってしまった。

「…君はクッキングクラブだから、友達と来た事あるかと思ったけど。じゃあ、今日ここに来れて良かったんじゃない?」

 彼は、ここに来た事があるのだろうか?

「うん!ありがとう、柏葉君」

 彼は向かいの席で水を飲みながら私を見つめ、少しムッとした表情に変わった。

「もう付き合ってるんだから、せめて俺の事名前で呼んでくれない?」


 私はどきっとした。



「…………え」



 で、でも、どうやって呼べば。



「…………ほら、呼んでみてよドジおとめ。今」



 …………。



「…………樹、くん」




 彼と私の、目と目が合う。





「…………」





「…………あ、あの…?」





 彼はしばらく、静止しながら私を見ていた。





「…………破壊力、すごいね。ちょっと今、色々ヤバかったかも」





 …………。




 …………何を破壊したんだろう。






 思い切って、
 私も言ってしまおうかな…。







「私の事、は、…その、『ドジおとめ』じゃなくて『苺』って、呼んでくれないかな」





「…………!」




 彼の瞳が、一瞬揺れた。




 私、…今、
 何だかとても大胆なお願いを
 彼にしてしまったのかな…。




「…………」



 相変わらず
 何を考えているのか分からない
 氷の様な表情だけど。



「…………もうすぐ…………そう呼ぶかも」



 ほんの少しだけ、
 嬉しそうに見えたのは
 気のせいかな。





 その時、
 注文をしたパンケーキが二つ、
 テーブルに運ばれてきた。





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